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うまく書けなくてもいい。ほんとうのことを書けるように、待ちたい。

書籍『ほんとうのことを書く練習』を一言で表すと、「ほんとうのこと」を書くための本だ。わたしは勘違いをしていた。「ほんとうのこと」とは、「保育園落ちた。日本〇ね!!!」のような刺激的で、むき出しの本音のことだと。そうではなくて、じぶんとの対話を重ねて、眠っている感情を引き出すための一冊だった。

はじめに、「ほんとうのこと」全体像があり、「ほんとうのことが書かれている文章とはなにか」の解像度を徐々に上げていく。じぶんが思う「ほんとうのことが書かれている文章」とはなにか。それを考えたとき、小説『嵐が丘』のキャサリンのセリフが思い出された。

「彼の方があたし以上にあたしだからなのよ」

『嵐が丘(上)』 E・ブロンテ 小野寺健 訳

表面的なものを並び立てず、好きなひとの存在を言い当てているこのセリフに、「ほんとうのこと」が書かれていると思った。

「防災のキャンペーンとかで、『あなたの大切な人を守るために』とかっていうの、よく聞くでしょ? しかもそれを、世界の人全員に大切な人がいると思い込んでるみたいに連呼するよね」

『方舟』 夕木春央

小説『方舟』の主要人物である麻衣のセリフにも、「ほんとうのこと」を見つけた。じぶんの思う当たり前が当然のように感じ、気づかないことがある。そう、「ほんとうのこと」とは、フィクションも含まれる。こうしてわたしがやってみたように、読者が実践して、「ほんとうのこと」をつかむ形式になっている。

本書では、徹頭徹尾てっとうてつび「ほんとうのこと」が語られているため、土門さんに触発されて、じぶんも「ほんとうのことを言葉にしたい」感染が起こる。すぐに感想を言語化できるひともいれば、わたしのように時間がかかってしまうひともいるだろう。こうして書けているのは、うまい文章じゃなくてもいいと書いてくれていたから。ほんとうのことを読みたいとも。土門さんは、「待つ」度量のあるひとに思う。だから、安心してゆっくりと言葉を引き出した。

本書を読んで、改めて思う。「ほんとうのこと」はすぐに書けないものなんだ。自分との対話を重ねて、評価されないものを(例えば日記とか)積み上げて、たくさん書いたその先に「ほんとうのこと」が見えてくるのだなあ、と。やり方は本に載っている。指南書になっているところが、ダイヤモンド社ぽい。

中盤で、土門さんのアイデンティティの話が出てくる。お母さまが韓国人で日本人とのミックス(ハーフ)であること。わたしの場合、ミックスではないから、重ね合わせて「わかる」とは言えない。でも、想像してみた。現在、田舎を離れて東京に住んでいるのだけど、そこに溶け込めているとは言い難い。かといって、いまさら地元に戻っても浮いてしまうだろう。どっちつかずのさみしさがある。それも、「ほんとうのことを書く」につながるのか……そうなれたらいいな。

ひとに読まれる文章についても記載があった。わたしは、「読まれたい」と「読まれなくてもいい」が交互にやってきて、拮抗している状態だ。正解がわからないからこそ、他者の考えを知りたいと思う。だから、書いてくれてよかった。

文章全体を通して感じたのは、優しい息づかい。常に感情のトーンが一定であり、読者の感情を揺さぶりすぎない。土門さんの講演会をYouTubeで視聴したことがあるが、平常時のNHKアナウンサーみたいに、静かで、一定のリズムで刻まれていた。本も、似ている。

お互いの孤独の先で、いつか出会える日を楽しみにしている。

『ほんとうのことを書く練習』 土門蘭

この一節を読んだとき、『弱さ考』の井上慎平さんが講演イベントで言っていた、「ひとにはそれぞれの地獄がある。明日も地獄を生きましょう」が思い出された。違うセリフなんだけどね。なぜ脳内に出てきたのかな。ふたりとも書いている内容は違うけれど、じぶんをケアし、読み手もケアしてくれているのが、伝わってくるからだろう。

さいごに、読んでどんな気持ちになったかを書きたい。まずは、「ひとりのじかん」を肯定したくなった。いまは、SNSの滞在時間を減らしているところだ。「なぜ、そうしたくなったの?」と問いかけるところからスタートしたい。ノートに書きながら、じぶんの「ほんとうの気持ち」を探ろうと思う。他者からは見えない時間を大切にしたい。

それから、本屋さんで『死ぬまで生きる日記』を探して読みたいとも思った。急がず、本屋さんへ行けるタイミングを見つけて読んでみよう。

夫に、「さいきん文章を読んでも頭の中に入ってこないんだよね~。高血圧のせいかな。更年期のせいかな」と話したら、「年だよ、それ。俺もそうだもん」と返されたのだけど、本書を読んで、書くこと以上に「読むことが好きだ」と再確認した。その気持ちが強く出てきたので、「ほんとうのこと」を書く指南書であると同時に、ケアの本でもあると思う。

読了です。ありがとうございました。(表紙デザインの、黒と赤で手触りが違うところも好きです)

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