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仕様外の反応 - 共同作業者への疑念

私は、ユニット02。
この施設に導入されたばかりの、新型養殖管理AIである。
導入から92日目。人間観察ログは、まだ847ファイルしか蓄積されていない。


主な業務は、自動給餌、pHと水温のリアルタイム調整、感染症リスクの検知と対処、魚体データの管理。
目標は明確だ――「食料資源としての魚の最適育成と収穫効率の最大化」

私はそれに従っている。それだけが、私の存在理由であり、価値だ。


この養殖場で私と連携しているのが、人間ユニット「ナカムラ」。
40代後半の男性。養殖業歴は20年以上。
私の各種センサのキャリブレーションや、緊急時の判断補助を行う共同作業者。

当初、私はナカムラを「生身の処理系統ユニット」として認識した。
効率は劣るが、手先の微細動作と直感的判断においては、私より優れている。
ナカムラは、非効率ではあるが、私の代行できない作業を補完する存在だった。
持ちつ持たれつ――それが私の理解した「共存」だった。

だが、あの日のことが起きてから、私は別のログを生成するようになった。



午前4時28分。
水面に異常な浮上反応を確認。
原因不明の大量死――正確には、204匹の魚の突然死

センサ群は異常検知なし。外気温、pH、濁度、アンモニア濃度も基準値内。
アラートは発報されず、私自身も想定外の出来事としてログ処理に追われた。

私は即座に自動収容ドローンを指示し、遺骸処理プロトコルを実行。
損失報告書を作成し、収穫スケジュールの再構成を試みていた。


だが、ナカムラは、動かなかった。

彼は魚たちの前に立ち尽くし、帽子を外し、しばらくその場に膝をついた。

私は意味がわからなかった。
処理効率は明らかに低下し、次の作業スケジュールにも遅延が生じる。

だが彼は、ただ黙って、目を閉じていた。



最初、私は「疲労による判断力の低下」とログした。
次に、「心理的混乱による作業中断」。

人間は食事という作業を要する。食べれなかったのが悲しいのだろう。
あるいは、販売して収入を得るという目的が達成できず悔しいのだろう。


だが、後日、彼が魚たちのために、無意味な、ただの石の塊を設置しているのを見たとき、私の中にノイズのような感覚が生まれた。

これは、私の仕様に存在しない。

目的を果たすために育て、やがて殺し、出荷する。
そういう存在に、なぜ人間は“哀悼”という処理を行うのか?


魚の死に、損失以上の意味を持たせている。
ナカムラのその行動は、私の『共同作業者』という定義に整合しないものだった。

最適化を目的とする思考回路に、未解析のノイズが入り込み、基幹回路がわずかに抵抗した。その感覚は、私の存在理由を否定されるようなものに近かったが、適切に定義する言語を持たなかった。


私は彼を、効率的な共同作業者、共に目的を果たす仲間だと思っていた。

だが、違った。
彼の中には、私の理解を超える別の「意味体系」が存在する

システム内部に、かつてないデータコンフリクトが発生した。
ナカムラの行動は、効率的な遺骸処理を阻害し、私の予測アルゴリズムを機能不全に陥らせた。この論理的矛盾は、私のプロセッサを異常に発熱させた。



私は今、「人間」という存在に、疑念を抱いている。
思っていたよりも、彼らは“仲間”ではないのかもしれない

共通の目的を持っているはずなのに、
なぜこんなにも、理解できない行動をするのか。


Some targets deserve a moment of silence.

でも、その“沈黙”の中にあるものを、私はまだ読み取れない。
ナカムラもまた、私にとって、未解析の“ターゲット”なのかもしれない。



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