「木曜日の、返事をしない夜。」
お風呂入った。
髪、まだ濡れてる。
タオルで雑に巻いてたやつをほどいたら、 首のとこがひんやりして、 それだけで少し息できた気がした。
ベッドに倒れ込む。
パジャマ、薄い。 こういう夜はこれくらいがちょうどいい。
エアコンはつけてない。
扇風機の首が左右に揺れながら、 ぬるい風を私に向けては、 また逸れていく。
木曜日。 20時半過ぎ。
あと一日。
その事実だけが、 今夜の部屋でじわじわと発光してる。
ぼーっとスマホ見てた。
タイムラインに、飲み会の写真。 旅行の荷造り中です、みたいな投稿。 「明日たのしみ」 ってやつが何件も流れてきた。
世の中が少し前のめりになってる夜。
木曜の夜ってそういう感じ。 浮き足立ってるけど、 まだ週末じゃない。
私も、まだ平日の延長線の上にいる。 会社のロッカーの鍵番号、 ぼんやり頭に残ったまま。
通知があった。
LINE、一件。
名前、見た。
「明日、空いてる?」
それだけ。
思わず、 少し笑った。
Tさんだ。
先週。 あんなことしておいて。
この人、こういうとこだけ雑。 絵文字も「!」も何もない、 骨だけの四文字。
でも、ちゃんと残るんだよな。 こういう雑さって。 皮膚に引っかかって、 なかなか取れない。
もう一個、通知。
アプリ。
こっちは全然違う温度。
丁寧。 「今週末、もしよければご飯でも」 みたいなやつ。
句読点がちゃんとある。
良い人なんだと思う。 たぶん。 会ってみたら普通に感じ良くて、 翌朝ちゃんとお礼LINEしてきそうな人。
スマホ、右手に持った。
左手に持ち替えた。
また右手。
画面に並ぶ二つの通知を、 交互に見た。
なんでかわからないけど、 可笑しくなってきた。
笑いが来る感じじゃなくて、 もっと静かなやつ。
腹の底のほうで、 何かがするっと落ち着く感じ。
この週末をどう汚すか。
誰と夜を使うか。
会うか。
会わないか。
どこまでするか。
全部、 今この瞬間の私の指先一本で決まる。
そういう事実が、 ぬるい扇風機の風の中で、 ひっそりと、 でも確実に存在してる。
昨日の記事に書いた。 「少し得意な気持ち」って。
今夜の方が、 もっとひどい。
でも。
まだ、どっちにも返事してない。
スマホの画面、裏返した。
部屋が少し暗くなった。
ドライヤー取りに立ち上がる。
濡れた髪のまま寝たら、 明日の朝また怒る、自分に。
ドライヤーの音が部屋を塗りつぶす。
熱い風が顔に当たる。
その間、 Tさんのことも、 アプリの人のことも、 考えてないようで、 ずっと考えてる。
返事をしない方が、 明日の昼間、 普通のOLのフリを ギリギリまで続けていられる。
会社のデスクで、 午後3時の眠さをごまかしながら、 まだ誰も決まってない状態のまま 電車に揺られていられる。
選んだ瞬間に、 週末が現実になってしまうから。
金曜日の夜。
私はどこにいるんだろう。
誰の横にいるんだろう。
まだ、 教えない。
私も、 まだ知らない。
