「台風の水曜日、忘れてた匂い。」

朝起きたら、
雨の音してた。

カーテン開けたら、
ちゃんと台風だった。

会社のチャット見たら、
在宅勤務になってた。

うちの会社、
在宅ほとんどない。

入社してから数えるくらい。

だから朝から少し変な感じだった。

とりあえずPC開いて。

メール返して。

資料触って。

でも営業もほとんど動いてなくて。

正直、
そんなにやることなかった。

雨の音だけ、
ずっとしてた。

普段の水曜日って、
もっと早い。

気づいたら昼で。

気づいたら夕方で。

でも今日は、
なんかずっと同じ音してた。

最低限の仕事はした。

たぶん。

でも手止まる時間、
やたら長かった。

画面見て。

雨見て。

また画面見て。

で。

余計なことばっかり考えてた。

何考えてたかは、
あんまり覚えてない。

でも、
仕事じゃなかった気がする。

部屋は静かなのに。

外だけ、
ずっと騒がしい。

その感じが、
なんか落ち着かなかった。

夜になって。

台風も少し落ち着いてきた。

お風呂入って。

髪乾かして。

ドレッサーの前座って。

その時だった。

なんとなく。

本当になんとなく。

奥の方に置いてあったやつに、
手が伸びた。

ずっと使ってなかったのに。

自分でも忘れてたくらいなのに。

手首につけた瞬間。

戻ってきた。

少し黄色っぽい照明。

静かな部屋。

カーテンの隙間から入る、
夜の街の光。

コンビニ袋の擦れる音。

シーツの感触。

誰かの体温。

順番とかじゃなくて。

一気だった。

頭じゃなくて。

身体の方が先だった。

「あ、この匂いだ。」

って思った。

たぶん、
ずっと忘れてた訳じゃなかった。

思い出す理由がなかっただけ。

普通に会社行って。

普通に帰って。

普通のOLに戻ったはずなのに。

匂い一つで、
こんなに簡単に戻るんだなって思った。

匂いって、
ずるい。

写真より。

LINEより。

たぶんずっと。

容赦ない。

なんか、
身体だけ少し熱い感じがした。

別に何も起きてないのに。

ただ手首に、
少し香りつけただけなのに。

手首の匂いも、
そのうち消えると思う。

明日の朝には、
たぶん残ってない。

でも今はまだ、
少し残ってる。

なんとなく、
手首をもう一回だけ
嗅いでしまうくらいには。

眠れなくなりそうだから、
今日はここで閉じます。

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