長い冬を過ごす研究開発|なぜ日本の研究開発予算は減らされてきたのか
こちらの動画で、国民民主党の玉木代表が大学部門の研究開発費が他国(アメリカ、中国、韓国)ではこの20年で増加しているのに対し、日本は0.9倍と減っている点を指摘していました。

特に2008年から2009年頃にかけて一度大きく減少していることが伺えます。
これは当時、政権交代した民主党政権の下で事業仕分けにより事業が再評価されたことが大きく影響しているようです。
その後、予算額は徐々に2008年度の水準まで戻しつつあります。

なぜ日本の研究開発予算は縮減傾向にあったのか、今後はどのようにあるべきか、考えていきたいと思います。
◆ 経済成長の伸び悩みは研究開発予算が少ないから?
なぜ研究開発予算がもっと必要なのか?
多くの人がイメージするのは、こんな考え方ではないでしょうか?
日本はこの30年ずっと経済が停滞してきた。
その大きな原因の一つは技術革新が起きなかったから。
アメリカは同じ先進国でも劇的に成長している。
そして、アメリカは大きな研究開発予算を投じている。
だから日本も経済成長のためにもっと研究開発予算が必要だ。
これは正しいのでしょうか。
GDPの経済成長率で見るのは難しいので、代わりに株価で見てみます。
リーマンショックが起きた2008年頃から現在にかけて、アメリカの代表的な株価指数であるS&Pは約10倍以上と驚異的な伸びとなっています。
そして、S&Pの実に3割以上は、マグニフィセント・セブン(Magnificent Seven)と呼ばれる巨大7企業が占めていると言われています。今年2025年(11月まで)のS&Pの上昇分はこの7社で4割を超えているほどです。
この7社、Apple、Microsoft、Alphabet(Google親会社)、Amazon、Meta、NVIDIA、Teslaですが、このうちこれらの企業の価値の中核を成すようなコア技術が政府の研究開発予算によるものは限られていると思われます。
挙げるとすれば、Googleの検索システムを支える検索アルゴリズム(PageRank)。他は基本的に民間投資によって伸びてきた技術や競争優位性です。
全企業に通じる技術としてはインターネットがあり、インターネット技術はかつて国防省傘下の機関が起源とされているため、ある意味政府支援とも言えます。
ただし、この起源は1970年頃で、日本とアメリカで差がついた要因にはなり得ません。
コア技術で言えば、
AppleはiPhoneとそのデザイン、UI
MicrosoftはWindowsというOSと標準的なソフトウェア
Amazonは巨大な物流センター・流通網と、顧客へのレコメンデーションシステム+AWS(クラウド)
MetaはFacebookという世界中に広がったSNS
NVIDIAはチップと、チップに紐づくCUDAというライブラリによりAI周りの開発者を取り込んだシステム
Teslaは電池事業を中心に据える電気自動車
これらはいずれも、政府開発支援が中心にあったものではなく、民間の事業判断として伸びていったものと言えます。
つまり、経済成長の停滞の要因が研究開発予算の縮小にあったかというと、そうとも言い切れなさそうです。
◆ 官が支援した研究開発の成果
この20年で研究開発予算は減ってきたとは言っても、毎年一定額は研究開発の支援が行われてきたことになります。
それでは、日本国内で見たときにその成果はどのようなものがあるのでしょうか。ChatGPTに聞いてみました。
IGZO/TAOS(透明酸化物半導体)ディスプレイ
省電力・高精細ディスプレイに使われる IGZO(=TAOS系) の実用化・製品利用。現在も大型パネルなどで一部使われる。iPS細胞(誘導多能性幹細胞)技術
臨床研究は進められているものの、コストの課題もあり、実用化まではまだ至っていない状況。京/富岳 国家プロジェクト級スーパーコンピュータ
計算基盤がコロナ対策、高精度な気象予測、新薬・創薬支援などで活用される。小惑星探査機「はやぶさ」のマイクロ波放電イオンエンジン(電気推進)
家庭用燃料電池「エネファーム」
こうしてみると、大きな利益を生むビジネス向けというよりも、どちらかというと医療や宇宙、エネルギーなど、一定の公益性・公共性がある分野の研究開発となっているようです。
ディスプレイはビジネス寄りですが、スマホで採用されているのは別の方式となっています。
◆ なぜ研究開発予算が減ってきたのか
一定の成果は出しているようにも見える官支援型の研究開発。それでも予算が減ってきてしまっているのはなぜでしょうか、考えてみます。
単年度主義の予算、長期間かけて成果を出す研究開発
予算は基本的に単年度主義です。一方、研究開発は1年で成果が出るようなものはほとんどなく、長期間かかります。
複数年度必要なものにも予算は対応できるようにはなっていますが、そもそもとして合わない性質という前提があります。成果指標を気にする予算、B/Cでは測りにくい研究開発
1と関係しますが、予算は単年度の中で成果を求めます。一方、研究開発は基本的にまだ上市前のものなので、価値が測りにくいという性質があります。
また、研究開発はやってみないと成果がどうなるかわからないのに、公的資金を投入する官の支援では失敗が認められにくいという欠点もあります。
その結果、既に結果が見えていて他でも真似しやすいような研究開発ばかりになりがちで、その研究の独自の価値が見出しにくくなります。アピールが必要な予算、アピールが苦手な研究開発
予算を求める際には優れた成果を出せることのアピールが必要です。しかし、自身の研究に関して熟知している研究者は、その成果の脚色を避けようとする傾向があり、その結果聞き手へのアピールにならないという点も予算が減る要因になります。
2009年頃に研究開発予算が大きく減ることとなった事業仕分けはその一例と言えます。
◆ 研究開発とビジネスの結節点
それでは、官による研究開発支援はビジネスとして大きな利益をもたらすことは難しいのでしょうか。
まず一義的な答えとしてはYesになると思います。
やはり官が支援するのは公的な理由があるから。
もしビジネス的に成功するのであれば、それは本来は民が投資すべきものというロジックになるでしょう。
それでも、官の研究開発がビジネスとしてイノベーションを生む可能性もゼロではありません。
そこで、この投稿の最後に、官が研究開発支援をしてイノベーションに繋げるにはどうすれば良いか考えてみます。
1.トップの号令
複数年度の支援にはハードルがあり、成果指標でも測りにくい分野では、通常の行政プロセスでは決めにくくトップによる意思決定が必要です。
もしトップの号令という手法が取れれば、複数年度や成果指標によらない事業が進めやすくなるでしょう。
2.官民連携下での支援
官はビジネス下手であり、官がフォローアップするのでは良いビジネスは生まれにくい可能性が高いです。
そこでノウハウを持つ民を巻き込むことが考えられますが、単に民を巻き込むだけでは民側は他人事になってしまいます。
そこで、民と共同出資とし、民も自社の事業としてフォローアップに加わるという方法が考えられます。
3.行政ペーパーワークの削減
2に関連しますが、従来型の行政ペーパーワークを求めていては、投資先はペーパーワークに工数を取られてしまいます。
そこで、行政型のペーパーワークは極力減らし、民とのフォローアップの連携の下、説明責任もそこで果たすという方法が考えられます。
