『道具箱』
ミチオが作業で使う道具箱は畑の隅にある。
金属の留め具は少しだけ硬い。開けると、匂いがする。土と油の混じった匂いだ。
小さな移植ごて、測定器、紐、記録端末。配置は変えていない。
ミチオはごてを取り出し、先端の土を拭う。昨日も同じことをした。
通路に人影が揺れる。誰かが写真を撮っているらしい。閃光はない。
職員が声をかける。
「備品に不足はありませんか」
「ない」
箱を閉じる。留め具の音が短く鳴る。
午後、再び開ける。紐を使い、畝の直線を確認する。ずれはほとんどない。
道具は使われ、戻される。位置は元通りになる。
夕方、箱の上にうっすらと土が積もる。指で払う。
箱は閉じられる。
中身は変わらない。
明日も同じ順序で開くだろう。
それ以上のことはない。
