#192 ぶっ飛んだタイトルの研究論文書くぞ!〜 小説から論文へ✨
「学術研究」というと、どういうイメージをお持ちですか。ヨーロッパに住んでいると、「職業は?」と聞かれて「研究職です」と言うと、一番多い反応は「Oh, cool ✨」(カッコいいね)です(社交辞令もあるとは思うが)。考えてみると、note を始めてから学術研究について語ったことがほとんどなかったので、今日は少し書いてみようと思います。
原因不明の体調不良
2023年8月にドイツへ来てから、ずっと研究がうまくいきませんでした。理由は主に精神的な体調不良で、「日本であれだけ集中できていたのに、なぜ?」と思う日々が続き、内容が難しいからというよりも、研究そのものに夢中になれない自分がもどかしい日々が続きました。そんな中、成果を出せなかったドイツの大学を早々にクビになり、オランダへ移ってきました。
一緒に頑張ろう!
そんな体調不良が急速に解消したのは、今年の6月以降のことでした。ライフワークとして似た目的を追いかけている方との出会いがあり、「一緒に頑張ろう!」と意気投合したことで、視界が開けました。その出会いを長く記憶に留めておくために、語り合った内容を小説に展開したものが、「第131回文學界新人賞」に応募した小説でした。下の記事に詳しいです。
ヨーロッパに来て初めての研究論文、提出!
体調は急激に回復、来年4月末にノルウェーのベルゲンで開かれる国際会議、International Learning Analytics & Knowledge Conference 2026 (LAK26) に向けて準備していた論文が仕上がり、無事提出することができました。あまり知られていないかもしれませんが、学術論文を学会や国際会議に提出すると、「査読」と呼ばれる審査を受けます。学術的に価値が高いと認められた論文だけが、学会本番での発表を許されます。審査結果が出るのは、12月頭です。
国際会議のランクづけ
国際会議には、学問の世界で参照される「ランキング」が存在します。影響力の大きな学会から、A+, A, B, C と4段階になっており、AIの世界で A+ ランクの国際会議で発表される論文には、「世界を変える」くらいの力が時としてあります。例えば、多くの人が使っている ChatGPT や、Google 検索の背後で動いている Transformer と呼ばれる構造は、NeurIPS(ニューリップス)という A+ ランクの国際会議で発表されました。
「ランキングなんて気にするな!」と言われそうですがそうでもなく、僕の勤務する大学の規定で、A+, A ランクにしか投稿してはいけないルールがあります。「通りやすいから」とBランク以下に出す人が増えると、大学の国際ランキングが下がってしまうからだと思われます。
今回論文を提出した LAK26 は Aランクで、論文の採択率(提出された論文のうち、学会本番で発表できる割合)は 30%前後……7割は不合格になるわけです。同僚も一人、昨年不合格を食らい、今年も挑戦しています。まあ、「文學界新人賞」での受賞は約2000作品中一作品、受賞率 0.05%なので、小説に比べれば論文の方がまだ望みはある感じです。
締め切りは一日違いだった
ところで、今回提出した「LAK26論文」の締め切りは9月29日、「第131回文學界新人賞」の締め切りは9月30日でした。ほぼ同じ締め切りだったので、完全にパラレルで進め、頭の中では論文と小説が同じ回路で処理されていました。これが、意外な効果を生んだのです。
このアイディア、すごいぞ!
無事LAK26へ論文を提出したのち、「少し休憩」と思って、文學界新人賞の小説が舞台としたオランダの田舎町へ一人旅に出ました。小説で描いた風景を見ながら、「次の研究論文、どうしようか……大枠は決まっているけれど、細かい部分はこれからだな」と考えていました。そんな時、いきなりひらめいたのです。「これ、いけるぞ💡」という感覚でした。


上司から出たOK
一人旅から戻って、すぐにアイディアをまとめて、上司である指導教授に見せました。日本と違って、オランダ教育省の予算でお給料をもらい、生活と研究をしているので、論文の内容やアプローチは完全に自由ではなく、予算の方針に沿っている必要があります。興奮してアイディアを説明した僕に対して、上司は「イイね、それ、やろう」とすぐに認めてくれました。その研究のアイディア、中身はここには書けませんが、思いもよらないきっかけで思いつきました💡
登場人物が教えてくれた
「第131回文學界新人賞」へ応募した小説では、作品中で主人公の女性が何度か同じ内容の言葉を口にします。小説は恋愛小説に分類される純文学作品ですが、その登場人物のセリフが、なぜかAIの研究に直結する内容だったのです。本当に、びっくりでした。
登場人物が言った通りに図を書くと、AIの数理的構造が浮かび上がりました。これはきっと、小説と論文を全く同時に進めていたことから来た必然だったのだと思います。小説を書くことが研究を助け、研究することが小説の燃料になった6月からの時間だったわけです。
ちなみに、その小説の鍵となるアイディアの最初のかけらが生まれたのはデンマーク、コペンハーゲン。その中身は物理学の理論「コペンハーゲン解釈」と多少関係していました。「あの地に何かあるのだろうか」と感じた一致でした。

ということは、タイトルだって……
そんな「ひらめき」の論文を出すターゲットも、上司と話してすでに決めました。最終締め切りが2026年5月となる、EMNLP(= Empirical Methods in Natural Language Processing)という、言語を扱うAI分野「自然言語処理」の世界でトップタイとなる、A+ランクの学会です。採択率は20%前後なので、8割が不合格となります。それでも、EMNLP にチャレンジすることに決めました。
さらに、その「ひらめき」の内容をタイトルにすると、小説のタイトルとちょうど逆の意味になることが分かりました。ということで、「第131回文學界新人賞」に出した小説と逆のタイトルの論文を、AI国際会議EMNLP に出そうと思っています。AIの世界は、「ぶっ飛んだタイトル」の論文が許される世界なので、上司させ説得できれば、思いついたタイトルは「かなりイケてる」んじゃないかと思います。
ぶっ飛んだタイトルの研究論文を紹介!
ではそんな、AIの世界の「ぶっ飛んだタイトルの研究論文」を5本紹介します。タイトルの日本語訳は、多少「超訳」にしてあります。それぞれの現時点での「被引用数」も書いておきます。多く引用された論文ほど、社会的な影響力が大きいのは言うまでもありません。
ちなみに、僕の書いた論文は1本だけネット上に上がっていますが、引用数は5件です。各論文のタイトルをクリックすれば、論文に飛べるようにしてあります。
Attention is All You Need(あなたは注目してほしいだけでしょ)2017年
ぶっちぎりのトップはやはりこの論文で、被引用数はなんと198668件!Google 検索、ChatGPT など、現代社会で使われているAIの「新時代の基礎」を作った Google 社発表の論文です。この論文がなければ、我々の今のライフスタイルは少し違っていました。
You only look once (YOLO)(見るのは一度でいいんだ)2016年
このタイトルはパロディで、元は You only live once(人生は一度しかない)という格言。これが YOLO(ヨウロウ)と略語化されてポップソングになったものをさらにパクって画像系AIの論文タイトルに。被引用数は67700件。
Don't Stop Pretraining(事前学習を止めるな!)2020年
『カメラを止めるな!』という2017年の映画がありましたね。映画とは関係ないと思いますが、このあとタイトルが「〜するな」系が続出、流行となりました。被引用数は3052件。
The Curse of Recursion(繰り返しの呪い)2023年
僕の今後の研究の方向性を示してくれた、とても大切な論文。学習データを適切に管理せずにAIを使い続けるとどうなるか、数学的に警鐘をならした論文。被引用数は445件。
Artificial Artificial Artificial Intelligence(人工人工人工知能)2023年
AIの開発の中にAIが使われていて、それってすでに「人工」が何度も入っているのでは?という問題提起論文。繰り返しという意味で上の「呪い」の論文と関連あり。被引用数は203件。
学術論文検索は、下の Google Scholar がほぼ世界標準です。論文検索だけでなく、各研究者の論文がどのくらい引用されているか、一目でわかります。無料で使えます。
みなさまにいい報告ができるように
文学賞に出す小説は、「よく書けていたら賞をもらえる」わけではありません。なんといっても受賞は2000本中1本、時代の流れ(どんな小説が売れるか)や、審査員の好み、その年に起きた出来事によっても結果が左右されます。しかし、研究論文は「科学的新奇性・論理性が突き抜けていれば、評価してもらえる」世界です。文学賞と異なり、著者名も大学名もすべて伏せた状態で提出し、採否判定の後に著者が分かるシステムです。来年5月、いい報告ができるようにがんばります。
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小説か論文、似たタイトルだし、同じ人が書いたんだから、どっちか通してくれないかな……今日はそんな、「研究テーマに興奮している」話でした。
今日もお読みくださって、ありがとうございました🧴🌳
(2025年10月13日)
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