那須川天心の敗北の意味と武尊引退が暗示するもの
井上拓真選手に敗北を喫し、格闘技ファンは那須川天心選手の実力を視覚的に確認できた事だろう。
僕は何度も那須川天心の優れたポイントについてキックボクシング時代からno+eに記して来た。当然その頃も無敗でしたが、苦しい試合もありました。
ロッタン戦、武尊戦です。厳しいながらも勝利できた一番のポイントはよく言われているのはメンタルです。ですが僕は昔からそれに異を唱えて来ました。
幼少の頃から鬼のような父に鍛えられたからメンタルが違うと言うものです。しかしメンタルは鍛える事はできません。もって生まれた性質でしかないのです。それは同じ父に鍛えられた妹や弟で証明できます。
妹はタイトルマッチに敗れ、突然キックボクシングの世界から姿をくらましてしまいました。弟は兄ほど厳しくされなかったそうですが、兄よりむしろキックボクシングは上手な感じです。
同じ親から生まれた兄弟が、同じ教育を受けたとしても同じようには育ちません。それはそれぞれが生まれつき持った性格や性質があるからです。
ほとんどの選手は試合前には緊張して睡眠不足でベストコンディションで試合に臨む事ができない場合が多いでしょう。
ところが彼の話が事実だとすると彼はいつも平常と変わらぬ状態で試合を迎える事ができるらしいのです。これは鍛えられてそうなったのでは無く、性質です。場合によっては社会不適合になる事もある性質ですが、スポーツの世界ではこれが優位にはたらくのです。普通の選手であれば緊張したり、ベストコンディションでなかったりで実力を出し切る事ができないからです。
だから、ロッタン選手にも武尊選手にも勝利する事ができたのだと僕は考えていました。仮に並みの選手のようなコンディションでこれらの試合に臨んでいれば、あれだけ微妙な結果だったのですから、判定は逆になっていたのではないでしょうか。
それでも今回のボクシングでは初の敗北を喫しました。これは試合前からある程度予測できる事でした。
今回の試合ではコンディション面で両者に差が無かったと思われます。やはり親子でのトレーニングは他人がやるより行き届きます。いつもなら優位に立てるコンディション面での差は出ませんでした。
次に感じたのは公開ジャッジの試合内容への影響です。この試合はキックボクシング選手がボクシング界に殴り込みをかけて、最後の牙城に手を掛けた試合とも見られています。それがジャッジに影響しているのではと思われる最初のジャッジでした。僕は那須川天心有利と感じていました。しかしこれもそうなるだろうと予想していました。ジャッジは人間ですし、商売ですから見えない力が働くのです。
この公開ジャッジで流石の那須川天心も気持ちの変化があったと思います。それが戦術に影響したはずです。第一ラウンド終了時に那須川天心はおかしな動きをしました。あれはラウンドを取ったとアピールするもののように見えました。もしメンタルが本当に強いなら、ここで心の動きは無かったはずなのです。しかし明らかに動きに影響していました。そしてジャッジを聞いた時に「おやっ?」と思ったでしょう。
次に技術的なものです。那須川天心選手の強みはディフェンスの良さです。しかしこの点でも井上拓真選手はサウスポー相手に上手に捌きました。那須川天心は大振りが目立ち、ダッキングされてバランスを崩す場面が何度も見られました。井上拓真選手がもう少しリラックスしていたならダッキング後の返しのパンチでダウンも奪えるのではないかと思えました。それでもあの動きは印象的に井上拓真選手にかなり有利にはたらいたと思います。
結果は井上拓真選手の判定勝利に終わりました。ダメージ的には大きな差は無いように見えました。ただし、今回は那須川天心にしては被弾していたように思います。これは案外今後の選手生命に影響を与えるのではと僕は思いました。
先日、武尊選手が次の試合での引退を発表しました。僕は引退を撤回してくれる事を希望しますが無理だと言う事も承知しています。それはこの間の試合はこれまででベストとも言える試合でしたが、それでも頭を打たれています。武尊選手は日頃からのガチスパーでかなり打たれ強くはなっていますが、前回のロッタン戦では酷いダウンを喫してしまいました。悪コンディションでも試合をキャンセルしない姿勢は選手生命に影響を与えました。
これ以上やれば後の人生を苦しいものにしてしまうので、家族を持つ身としては他の選択肢があって当然です。
そこで那須川天心選手について考えてみると、彼はこれまでほとんど打たれた事がありません。記憶が飛ぶようなダウンを喫した事も試合ではありません。ただ今回の井上拓真戦ではわりと打たれてしまいました。今後、トップレベルで戦う場合、スキルアップが無いと打たれる数も増え、左ストレートをかわされてカウンターパンチを貰う図が見えます。那須川天心にもサウスポー特有の左ストレート頼りが昨日の試合では見えました。今後は弱点として研究されるでしょう。
あまりパンチを貰わない選手が貰い始めるとダメージも大きいのではないでしょうか。僕の印象では那須川天心選手はボクサーの形に成り切っていないように見えます。高い重心が気になります。そこが克服できれば王者を長く守れる選手になると思いますがどうでしょうか。
シャドーでは出来ているように思うのですが、長くキックをやっていた影響はそう簡単に消えるものでは無いようにも思えます。
パンチの後遺症が出ないと良いのですが。
