ジョブクエスト
中間管理職になりますか?
▶︎ はい
いいえ
私は仕事をRPGだと思っている。
仕事に対する熱量は鳩の鼻水ほどしかなく、サラリーのために一日24時間のうちの三分の一以上のリソースを割いているに過ぎない。
時間外労働なんて、真っ平御免。
一日は24時間しかないのだ。
通勤時間と勤務時間を少なく見積もっても10時間。
睡眠時間は6〜7時間。
家事労働で少なく見積もっても3時間。
合計すると、20時間。
私の自由になる時間は多く見積もっても4時間である。
ここから食事の時間や自分の支度、子どもとの時間なりを差し引かねばならない。
ということは、あまり時間などないではないか。
時間外労働なんて、絶対にしたくない。
私は与えられたジョブというボスを倒すため、最短経路でクエストを進まなければならない。
あなたは、優秀な働きアリですか?
▶︎ はい
いいえ
よく耳にする262の法則。
働きアリの法則と言った方がわかりやすいかもしれない。
優秀な働くアリが2割。
普通に働くアリが6割。
働かないアリが2割。
とされる法則だ。
プレイヤー時代の私は、自他ともに認める優秀な働きアリだった。
そして、優秀な私を指導する直属の上司は働かないアリが多かった。
私は彼らを、「人はいいのに無能」な上司だと思っていた。
適切な指示もなく、上司としての働きも不十分で、彼らと話すよりその上の上司と話した方がその後の展開も早く「こちらで説明しておきますね」と、勝手に話をつけたりもした。
完全に感じの悪い部下である。
まあ、それをよしとした上司にも問題があるとは思うが、私はあまりの上司の頼りなさに辟易しながらも、自分の評価が上がっていくのが心地良くもあった。
たまに優秀な上司が自分の上につくと、仕事ができる人は違うなあ、と感嘆するとともに、自分の思考を飛び越えた指示を受けながら、脳内でドーパミンが出るのを感じたりもした。
働かないアリへの関心は薄く、組織としてはそういう働かないアリも262の法則上、必要な人材であるぐらいに考えていた。
仕事はせずとも、えてして個性的だったりと、人としてはユニークな人が多いと感じることも多かった。
トラブルを起こさない程度の仕事をしてくれればいいと思っていた。
来たる令和4年3月某日、私の中でビーコンが鳴り響いた。
昇任に伴って異動した先は、時間外労働とはほぼ無縁。
ありがたいが、罠がある。
時間外労働と無縁の環境は勝ち取ったものではない。
創意工夫のもと、業務をスリム化し時間外労働と無縁になったわけではない。
用意された環境だ。
そう、働かないアリがいる可能性が非常に高い。
働かないアリがあらわれた?!
コマンド
▶︎ たたかう
じゅもん
にげる
どうぐ
もしかするとここには働かないアリがいるかもしれない。
そうであれば、私のミッションは、働かないアリを働きアリにすることだろう。
プレイヤーとして優秀だと自負していた私は、自分の能力を過信。
少しでもミスをすれば働かないアリの可能性があると考え、厳しく指摘をした。さながら、女王アリの気分だったかもしれない。
まさしく、戦闘モード。
当然、私の指示はなかなか通らなかった。
私は新参者である。
女王アリとして認めていたわけでもなく、借りてきたネコがシャーシャー歯を剥き出しにして、怒り散らしているだけだったかもしれない。
しかし、だからといってこんなにも指示が通らないものかとも思った。
今までは、借りてきた猫であったとしても、それが正しい指示であれば、修正してもらえたし、自分も修正してきた。
指示する側の人間、される側の人間に私はあまり「信頼」というものに重きを置いていなかったからかもしれない。事実は事実として存在し、それが正しいかどうかだけを判断すればよいと思ってきた。
でも、そう考えない人もいるのかもしれない。
共通言語である日本語で話しているはずなのに、意思疎通すらできていないような錯覚を覚える始末。
うまく回せない。
戦闘モードの私には、相手も戦闘モードにならざるを得ないのかもしれない。
マネジメントができない。できていない。
だからと言って、私がプレイヤーとなり仕事をすることもできるが、それは何の意味もなさない。
私はプレイヤーとしては優秀だと自負していたが、マネージャーとしてはポンコツだったのだ。
あまりにうまくいかない日々が続き、終いには夢で仕事をし始め、
「このままだとやばいな」
と思った私は、すぐさま方向転換をすることにした。
戦闘モード解除!
コマンド
たたかう
じゅもん
にげる
どうぐ
▶︎ なかよくなる
このままではいけないと思った私は、戦闘モードを解除することにした。
仕事はバトルではないのだ。
指示する側、される側というのを排除することにし、私は仲良くなるというコマンドを選択した。
戦闘モードを解除すると、意思疎通ができるようになった。
ちゃんとマネジメントできるじゃない、私。
なんて思い始めた頃、彼らにヒアリングを行う機会があった。
そのヒアリングをして気づいたことがある。
私や上司が抱いているプレイヤーたちへの評価と、本人たちの自己評価には大きな溝があるということに。
正直なところ、意思疎通ができるようになっていても、部下たちが私の理想とする仕事をしてくれているとは思えていない自分がいた。
もう少し精度の高いものをと望んでいたし、私より上の上司もそれを望んでいた。
意思疎通ができるようになったのだ、これからは精度を上げていくぜ!
なんて再び戦闘モードになっていた私。
その時の私は、彼らを働かないアリまたは普通のアリというレッテルを貼っていた。しかし、彼らは当然仕事を頑張っていた。自分を働きアリだと思っている。働きアリではないでしょうよ、と言いたい自分がいた。ここまで自己評価と他者評価が違うのか、と私は驚きを隠せなかった。
そのヒアリング中、真剣に話を聞きつつも、時空が歪んでいるような感覚があった。
歪んだ時空の向こう側にデジャブのような景色が見えた気がした。
ぼんやりとぼやけて見えるのは、ぽってりとしたシルエット。
服は、黒づくめ。
名探偵コナンに出てくる新しいキャラクター?
え? それともでっかいアリ?
いや違う。
あれは、少し前の私だ!!
もしかすると、どんな人でもある程度のタスクをこなせば、自分を優秀なアリにカテゴライズする可能性があるのでは?
私も働かないアリか普通のアリだった可能性あり?!
過去のイけてない上司を振り返る?
▶︎ はい
いいえ
仕事ができないなあ、と思っていた上司は、褒めるのは抜群にうまかった。
非常に評価していただいていた。
もしかすると、私、ノせられてた?
働かされてた?
自己肯定感底上げされて、自分の能力も底上げされてた?
我に返り、はたと過去を振り返ってしまった。
調子に乗っている自分を想像し、穴に入りたい気持ちになった。
しかし、地面はコンクリートである。
穴に入るには電動ドリルが必要だ。
掘れそうな場所もない。
私は次第に冷静さを取り戻し、以前、可愛がってくれていた上司がよく言っていた言葉を思い出した。
「早く上に上がんなさい。見える景色が違うから」
もしかして、これも違う景色の一つ?
先に教えてほしかったやつである。
▶ ぼうけんのしょをつくる
あなたは、今後どのようにマネジメントしていきますか?
▶︎ ほめて伸ばす
▶︎ 私が働かない2割のアリになる
▶︎ チームが回りさえすれば、自分の評価は後回しにする
新たな冒険の書は、私がアイテムを集め、歩き、ボス討伐のためレベルアップをするだけでは、うまくいかなさそうだと知った。
私はコントローラーを動かさなければならない。
アイテムを集め、歩いてもらい、ボス討伐のためにレベルアップをしてもらわなければならない。
私がスキルアップをすることがあるとすれば、コントローラーの動かし方を熟知し、そして、マップを把握して誘導することだ。
味方を煽り戦闘モードにするフェーズでも、私が同じフィールドに降り立ち、共に手を取り合い戦うフェーズでもなかった。
彼らには私は同じフィールドにはいないと知ってもらわないといけない。
手っ取り早いのは、私が働かないアリになることだ。
そうすれば、チームの残りのメンバーは優秀な働くアリまたは普通に働くアリにならざるを得ないのだ。
そして、プレイヤーをほめる、褒める、誉める。
プレイヤーが私を受け入れる環境が整い次第、アドバイスを行う。
このクエストをクリアし、平日4時間の自由時間を確保することが、私にとっては仕事で評価されるより重要なのである。
私の仕事は、コントローラーでゲームをプレイする「働かないアリ」である。
