【EZ Sign 開発物語 ⑨】クラファンの罠から累計3万台の大ヒットへ。日米EC販売の明暗と、立ちはだかる「NFCの壁」
こんにちは!Santek(サンテクノロジー)のCEO、矢次です。
日米のクラウドファンディングで熱狂的なご支援をいただき、
「EZ Sign」という新しい概念は確かな手応えを掴みました。
まだ読んでいない方はこちらから!
次なるステップは、
日米のAmazonや自社ECサイトを通じた「一般販売」です。
しかし、ここからスムーズに世界展開……とはいきませんでした。
実は、一般販売の立ち上がりにおいて、
日本とアメリカで全く逆の「明暗」が分かれることになってしまったのです。
今回は、グローバル展開のリアルな失敗談と、
そこから生まれた思いがけない反響についてお話しします。
1. アメリカ市場で直面した「Kickstarter運用の難しさ」とジレンマ
日本側は、2025年10月にMakuakeのプロジェクトを無事に完了させました。
その後、直販サイトやAmazon、楽天、Yahoo!ショッピングなどでの販売準備も順調に進み、同年11月にはいち早く一般販売をスタートさせることができました。
一方、アメリカ側では想定外の課題が続きました。
当初はMakuakeと同時期の開始を目指していましたが、
Kickstarter特有の審査対応や素材準備、
販売条件の調整に想定以上の時間がかかり、
結果として開始はMakuakeよりも2ヶ月遅れることになりました。
さらに、当初は「世界中に届けたい」という思いから
発送対象を広く設定していましたが、実際に進めてみると、国ごとに
配送手段、通関手続き、税金の扱いが大きく異なり、
想定以上に複雑な対応が必要になりました。

結果として、発送完了までに多くの時間を費やすことになりました。
そして、大きな制約となったのが、Kickstarterのリターン発送ルールです。
規約上、バッカーへのリターン発送が最優先されるため、
すべての発送が終わるまで一般販売を開始することができません。
一般販売用の在庫は確保できていたにもかかわらず、
Amazonなどでの販売を始められない。
そんな歯痒いジレンマに陥ることになりました。
2. 日本市場の爆発と、
ショート動画がもたらした「うれしい誤算」
アメリカが苦戦している間、
先行して一般販売を開始した日本市場では、想像以上の大きな反響が生まれていました。
リリース直後から、
ASCII.jpさんの名物企画「T教授の『戦略的衝動買い』」にて
「遊べる“ビジネス電子ペーパー”EZ Sign NFCを衝動買い」と紹介されたり、
T教授の「戦略的衝動買い」 第856回
遊べる“ビジネス電子ペーパー”EZ Sign NFCを衝動買い
@DIMEさんで
「スマホをかざすだけで情報を更新!NFCと電子ペーパーが生み出す新たなコミュニケーション」と大きく取り上げられるなど、
スマホをかざすだけで情報を更新!
NFCと電子ペーパーが生み出す新たなコミュニケーション
EZ Signが有力メディアの目に留まったのです。
これにより通常販売のベースが少しずつ上向きになっていった矢先、
年が明けた1月に「特大のバズ」が起こりました。
SNSに投稿されたEZ Signのショート動画が、瞬く間に拡散されたのです。
魔法のような驚きを持った動画は、累計すると100万再生以上、
なんと日本市場だけで「週1,000台越え」の販売を記録しました。

まったく想定していなかった爆発的な売れ行きにより、
数ヶ月分用意していたはずの在庫があっという間に底をつき、
人気のモデルはたちまち「在庫切れ(欠品)」状態になってしまいました。
製造メーカーとしては冷や汗ものですが、まさに「うれしい誤算」でした。
3. 遅れを取り戻せ!
日米リソースの統合とグローバルEC戦略
一方、日本の絶好調な販売とは裏腹に、
ようやく今年の2月に一般販売を開始できたUSチームでしたが、
クラウドファンディングのような爆発的な勢いはなく、
広大なAmazonの海で苦戦を強いられていました。
直販サイトへの流入も限定的でした。
課題を洗い出してみると、
根本的な運用体制に問題があることが分かりました。
同じ製品を販売するのに、
日米のチームが「別々に」コンテンツや売場を作っていたのです。
これでは効率が悪いだけでなく、
日米それぞれの良いところ(成功事例)を両国で共有して
PDCAを回すこともできません。
おまけに日米間でのコミュニケーション不足という問題も山積みになっていました。
そこで私は、体制の抜本的な見直しを決断しました。
Santekには私を含めて日英バイリンガルのスタッフが多く在籍しています。
別々に効率悪くページを作成するのではなく、
「コンテンツ制作の主導権をジャパンサイドに完全移管する」ことにしたのです。
画像や訴求テキストの作成、
さらには英語化のベース構築までも日本で行い、
アメリカ側は
「現地のネイティブに向けた細かいローカリゼーション(微調整)」のみに集中する。
この一元化により、
グローバルでのマーケティングのスピードと質は一気に向上しました。
4. 次なる「最大の試練」と、
立ちはだかる「NFCの壁」
日米での運用体制を統合したことで、
EZ Signは両国で順調に販売台数を伸ばし、
本格的な成長フェーズへと突入していきました。
しかし、世界中でEZ Signが使われ始め、
絶好調だと思われた矢先……
私たちの前に「本当の試練」が待ち受けていました。
一方で、Amazonでの販売が広がるにつれ、
厳しいレビューも寄せられるようになりました。
内容を整理すると、主に以下の3点です。
「表示の解像度が期待より低い」
「通信エラーが出て、うまく書き換えられない」
「アプリの使い方が分かりにくい」
お客様から寄せられたこれらの声は、私たちにとって、
製品理解と改善に向き合う大きなきっかけとなりました。
まず、「解像度の問題」については、
私たちは電子ペーパーディスプレイの特性として、
あえてこの解像度を採用しています。
これは物理的な仕様であるため、
ソフトウェアでどうすることもできません。
液晶や有機ELディスプレイとは根本的に異なるデバイスであることを、
販売ページでより丁寧に説明していくしかありません。
そして、最も深刻だったのが「NFCの通信エラーの問題」です。
これには、
NFCの仕組みそのものをユーザーに理解していただく必要がありました。
完全電池レスのEZ Signは、
スマホのNFC機能を利用して「データ」だけでなく「電力」も同時に送信しています。
まずは数秒間で電力を送りながらデータを送信し、
その後EZ Sign本体側で画像データを表示させます。
この表示の切り替わりの間も電力が必要なのです。
特に「4色カラーモデル」の場合は、顔料を動かすために
さらに15〜20秒ほど、スマホから電力を送り続ける必要があります。
この間、少しでもスマホがズレると電力供給が絶たれ、
当然のことながらエラーとなってしまいます。
実はこの「NFCを正しくかざし続ける」という行為は、
一般ユーザーにとって想像以上にハードルが高いのです。
それを痛感した出来事があります。
日本では2023年からパスポートのオンライン申請が可能になり、
大変便利になりました。
しかし、この手続きにはスマホのNFCを利用して
パスポートやマイナンバーカードを読み取る操作が複数回必要です。
私自身もやってみましたが、何度かエラーが出ました。
ネットを見ても、
このNFCの読み取りで難航している人が非常に多いことが分かりました。
昨年、日本のパスポートセンターへ受け取りに行った際、
印象的な光景がありました。
ネット申請を済ませて待っている人は私を含めて数人ほどでしたが、
従来通りの紙の申請書で手続きをしている方も多く見られました。
オンライン申請やNFC操作は便利な一方で、
まだすべての方にとって当たり前の操作ではありません。
「スマホをかざす」「位置を合わせる」「動かさずに待つ」という操作は、慣れていない方にとって想像以上に難しく感じられることがあります。
この経験からも、
NFCの仕組みや
「電気とデータを同時に送っているため、
書き換え中は動かしてはいけない」という使い方を、
販売ページなどでコツコツと
根気よく説明していく必要があると感じました。
5. 「やる一択」で挑んだアプリの大改修
ハードウェアの特性に対する啓蒙活動を進める一方で、
私たちが自分たちの力ですぐに改善できるものもありました。
それが、
3つ目の厳しい意見である「専用アプリ(APP)の使い勝手」です。
「毎回同じデザインを作るのが面倒」
「Wi-Fiや受付のQRコードをサクッと出したい」
「もっと色々なフォントを使いたい」
お客様から寄せられたご意見をすべて精査し、リスト化すると、
要望の数はざっと30項目以上に及びました。
電子ペーパーやNFCの物理的なスペック上、
ソフトウェア側で「実現できること」と「どうしてもできないこと」を
冷静に振り分け、優先順位を決定しました。
ご存知の通り、
EZ Signの専用アプリはWindows、Android、iOSの3OSに対応しています。
これらすべてを同時に改修するのは、
開発現場にとって想像を絶する大工事です。
しかし、お客様に心から喜んでもらえる製品を作るためには、
「やる一択」しかありません。

QRコードの自動生成機能、
編集内容のテンプレート保存、
フォント選択の自由化、
画像のディザリング方式の追加など、
お客様の「もっとスムーズに使いたい」という要望に応えるための、
大規模なアプリ・アップデートへの闘いが幕を開けたのです。
次回、【第10回:口コミ・批評・開発現場のPDCAと改善】。
ハードウェアの限界とお客様の声の狭間で、
アプリと運用面を極限まで磨き上げた「終わらない改善への闘い」をお届けします。
どうぞお楽しみに!
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