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1yottan
超掌編小説「忘れたい」#シロクマ文芸部

「忘れたい」
「忘れたいの」
紗代子は、そう言うと左手の薬指から少し緩くなった指輪をするりと外した。それでも二人の年月を物語るかのように白く細い指にかすかに跡が残っていた。
「どうして?」
僕は阿呆のような事を紗代子に訊いた。
「嫌になったからに決まってるじゃない」
プイと顔を背けると、そのまま布団を被ってしまった。渡された銀色の細いリングを僕は手の平の上に置いて、ずっと眺めていた。
それから一週間後に紗代子は白い箱に収まって今、僕の腕の中に居る。
沢山の弔問客が去り、僕達が暮らした小さな家に戻ると、紗代子が植えた金木犀の樹が、今年初めての芳しい秋を運んできていた。
台所でお茶を飲もうと湯を沸かしていたら、一冊のノートが目に止まった。そこには僕の好きな料理のレシピがこと細かく書いてあった。
「紗代子」
僕は瞳から溢れる叙情を止めることが出来なかった。
「忘れたいの」
あの時、紗代子が遺した言葉の真の意味は「忘れさせたいの」じゃなかったのか。
縁側に座り、不味いお茶を啜りながら、紗代子が最期に仕掛けたトラップに僕は僅かに微笑んで空を見上げた。
了
小牧幸助さんの企画に参加させて頂きます。
よろしくお願いします。

書けない(泣)
