いつになったら忘れられますか⋯夢見る少女じゃいられない(泣)

でも⋯
【或るスナックの戯れ言】
めちゃくちゃ寒い夜だった。
遅刻して来たミユの姿が、ガラス扉の向こうに見えるのに、ちっとも中へ入って来ない。
あいつ、遅刻したのに、また隣のママと喋ってる?
そのうち、ドアが開くと「ミステリと言う勿れ」の整くんみたいにマフラーに顔を埋めたミユが笑顔で店に現れた。
「寒い、寒い!!おはようございます」(夜なのに、おはようございますと言うのは、この世界の流儀らしい。知らんけど)
その後ろに寒そうにちょこんと隣のママの娘さんが立っていた(娘さんと言っても40代後半くらいかな?)
「あの⋯その節はありがとうございました」
「そんなこと、いいからいいから。寒いから早く中へ入って」
ミユと私は彼女(ここからはYちゃんで)を店の中へ招き入れた。
Yちゃんが私達にお礼を言ったのは、今年の元旦、彼女のご主人が突然死されたと聞いて、私達がお香典を出したからだった。
「大変だったね。痩せちゃったね」
私が言うとYちゃんは、もう大きな瞳を潤ませた。
その隣でミユが
「大丈夫だよ〜!私達、二人とも後家さんの先輩じゃん(笑)」
そう言いながら肩を抱いた(私は約六年前、ミユは約三年前に主人を亡くしている)
もう、そこで堪えていたYちゃんの涙腺が崩壊した。泣きじゃくりながら、おずおずと彼女は私達に聞いてきた。
「あの⋯どのくらい掛かりました?⋯なんて言うのかな、こうならなくなるまでに⋯」
人前で泣き崩れなくなるならないまでの時間を聞きたかったのだろうか。それとも立直るまでの時間?答に躊躇している私達にぼそっとYちゃんが言った。
「その⋯忘れるまでにって、言うのかな?」
その言葉を聞いたミユが、瞬時に一喝した。
「忘れられないんだよ!!」
「えっ?!」
「何年経ったって、忘れられないの!私だって今も思い出すもん。忘れなくていいの!!」
きょとんとしている彼女に私が補足した。
「そうだね、初めは私もYちゃんみたく毎日、号泣してたよ。それから、だんだんと思い出す度に泣くようになって⋯今も思い出せば泣くけど、やっと耐えられるようになってきたかな」
「今も?」
「そう、今も⋯でもね、いつかは綺麗な想い出に変わるから」
今のYちゃんへの慰めになっていない事は、分かっている。でも彼女は、何かを察したように
「今度、一緒に飲んでください!もう家で待ってる人が居ないから。ちょっと不良しちゃう(笑)」
そう言うと隣の店へ帰って行った。
忘れなくていい。忘れないで乗り越えて。
飲み歩いてもいいよ。それで寂しさを紛らわせられるなら⋯
私達は人間で、耐えられない出来事が襲ってくる時だってある。いつまでも綺麗事だけを言って生きてはいられない。
自分の心を守るためになら、少しくらいの悪さをしたっていいよ。
そのうちに、きっと気付くから「時薬」が、立直らせてくれる事を。
「寒い、寒い」
ミユが、やっとぶ厚いコートを脱いだ。
さぁ、仕事だ。

毎日、ありがとう♡
時が、いつの日か心の傷痕に「カサブタ」を作ってくれる。それを自分で剥がして、また時がカサブタを作って⋯そんな事を繰り返して、それで、やっと立っていられるのじゃないかな?
じゃぬーん♪
