掌編小説「誕生日」#シロクマ文芸部

「誕生日に何が欲しいの?」
西陽が差し込む喫茶店で、両手の上に顎を乗せて祐介が言った。
「もう貴方からは、沢山貰ってるから何もいらないわ」
祐介はマメな男だった。誕生日、クリスマス、ホワイト・デー⋯各イベントの他にも、
「君に似合いそうだったから」
「出張で見つけたから」
と、よくプレゼントをくれた。
始めの頃は、その心遣いが嬉しかったが、回を重ねる度に無用の長物となる彼からのプレゼントに辟易としていた。
「そんなこと言わないで、あるだろ?欲しい物?」
「そうねぇ」
上目遣いで祐介を見つめ返した。
要らない物は沢山ある。彼から贈りつけられたセンスのないリトグラフや、どぎつい色石の付いたネックレス、穴も空いていないのに集まった大ぶりなピアス達、クリスタルで出来たミッキーマウス、とても穿けそうもない迷彩柄のスカートや動物愛護団体から叱られそうなタヌキの毛皮が付いたコート⋯etc
メルカリで売れるどころか、リサイクルショップでさえ引き取りに弱音を吐くんじゃないかしら。
「クスッ」
思い出し笑いをした私を
「遠慮しないでね、何でも買ってあげるよ」
祐介はしつこく言った。
「じゃあ、旅行用の大きなスーツケースを」
誕生日プレゼントに、要らない物を捨てる大きなゴミ箱とは言えなかった。
「分かった、うんと可愛いのを買ってあげるね」
「ありがとう」
誕生日当日の夜、何処かで食事をしようと言う祐介の誘いを断って家に招待した。料理はデリバリーで調達してある。
ピンポーン
「は〜い」
午後6時きっかりに祐介が到着した。
心の中で、見てごらんなさいよ、このガラクタが詰め込まれた部屋を、と思いながら、とびきりの笑顔で彼を迎え入れた。コロコロと大きなスーツケースを転がして入って来た彼は
「わぁ、飾ってくれてあるんだね、僕からのプレゼント!!」
初めて観る私の部屋に歓声を上げた。
ーーえぇ、今日だけね
普段は段ボールに入れてクローゼットの奥に突っ込んである私のガラスの動物園を今日は開放してあげた。
「はい、プレゼント」
大きなスーツケースのムーミンとミイの上に、真紅のリボンが掛けられていた。
「わぁ、可愛い!!ありがとう」
心にもない言葉が口を付いて出た。
「これで一緒に旅行に行こうね」
私のソファに勝手に座った祐介が、ワインクーラーの中で冷えた汗をかいているシャンパンに手を伸ばした。
ポーン
「お誕生日おめでとう」
シュワシュワと泡を立てながら私を祝うシャンパンが、グラスに注がれていく。
「ありがとう」
祐介に甘えるように背後に回った私は
ガシャーン
クリスタルのミッキーマウスを彼の頭に叩き付けた。
「な、何をするんだ」
驚いたような顔をした祐介の胸に
砕け散ったミッキーを突き刺した。
「クリスタルって、意外と弱いのね」
苦痛で歪んでいく彼の表情に
「あんまり変な顔しないでね」
言いきかせるように、ビシャビシャと何度も何度も。
彼が一人で旅に出るまで、私は向かい側のソファに腰掛けてシャンパンを飲んでいた。
ーーもう、いいかしら?
動かなくなった祐介のパンツから覗いているスマホを抜き取ると顔認証でロックを外した。
「良かった、あんまり変な顔じゃなく逝ってくれて」
祐介のスマホの中には株で儲けたお金が入っている。だから普通のサラリーマンのくせに気前よく、私にプレゼントを贈り付けてきた。
全部下ろして私の銀行口座に振り込もう。
「うっ」
そう思った時、背中に強い衝撃が走った。
何?これ?
「二人で⋯一緒に旅行に⋯行こうって、言っただろ」
振り返った私の目に飛び込んできたのは、私の背中で歪んで嗤うミッキーマウスだった。
ーー大きなスーツケースじゃなくて、大きな冷蔵庫をお願いすれば良かった
了

小牧幸助さんの企画に参加させて頂きます。
めっちゃ急いで書いたから自信ない(泣)
今日は講習会で午後はずっと縛られている(/_;)
今日は何の日?♪
あひろさん🐤
お誕生日おめでとうございます🎊🎉🫶💞
