見出し画像

背伸び〜日記のようなもの〜



お店の常連さん(亡き夫の友人)三人と私達、女友達三人の計六人で鈍行に乗って熱海に遊びに行こうと決まったのは、つい一ヶ月前だった。
 別に何の目的もない。行き当たりばったりに面白そうな店を覗き、足湯に浸ろう。まぁ、それが唯一の目的みたいなもの。
それから話はトントン拍子に運び、六人の予定が、ちょうど合った先週の日曜日に決行する事になった。
さて、それはどうでもいい(えっ?!)
あ、だってね、田舎に住んでいると車社会で鈍行に乗るなんて事は滅多にないから、何故乗ったのかを説明しようかと思って。

とにかく私は鈍行に乗った。
駅や電車にはドラマがあると常日頃から思っている。日曜日の鈍行は空いていて、男三人と女三人が通路を隔てて、向かい合わせに座った。
「何かが起こるかも!」
とアンテナを張り巡らせていても、何も起こらない。そもそも何かが起こるには「人」が少ない。仕方なく私は女同士のバカっ話に加わりながら車窓を流れる景色を目で追っていた。
 幾つ目かの駅だった。両手で小さな子ども二人と手を繋ぎ、前には抱っこ紐(現在はベビーキャリアと呼ぶらしい)で赤ちゃんを抱えたお母さんが乗ってきた。ちょっと見た感じ、本当に申し訳ないけれど髪はボサボサ小肥りでよれよれのTシャツ、少し生活に疲れているのかな?と言うイメージだった(ごめんね)一番大きな男の子が(それでも小学校低学年くらい)お母さんの手を離れ、運転席の後ろに立った。お母さんは相手にしないで私達の隣に座った。
運転手さんと車両の間はガラス窓で隔てられている。あ、説明が遅れたけど私達が乗ったのは一番前の車両だった。
電車に乗り込む前に連れの男共が
「あ、可愛い女性の運転手さんだ」
といち早く見つけて、ヤンヤヤンヤと言っていたっけ。
その後ろに一人陣取った男の子は、手摺り(何て名前なんだろう?立っている人が捕まるヤツ)に掴まり、じーーっと運転席を見つめ始めた。もちろん、連れの男共のようなイヤらしい目つきではない(たぶん)
隣に座っているミユが(もちろん一緒に来た)
「後ちょっと背が高ければね~」
と笑う。
「ん?」
よく見ると男の子は小さな足にぎゅ~っと力を込めて背伸びをしている。
「なんとかギリで見えるかな?」
そんな男の子を乗せて列車は走り始めた。彼は背伸びをしたまま微動だにせず、ひたすらに運転席だけを見つめている。よく見ると帽子は運転手さんが被るような帽子で、ひさしに電車のワッペンやシールをいっぱいくっつけている。背伸びしているスニーカーも電車の柄だ。
「相当な電車好きだね〜」
私達は小さなツワモノに魅入ってしまった。
 幾つかの駅を過ぎた頃だった。停車時間が長い駅に停まった時、運転席のドアが開いて華奢で可愛い女性運転手さんが男の子に駆け寄った。視線が同じ位置にくるようにしゃがんで、大急ぎで何かを彼に渡すと再び運転席に戻って行った。
男の子は渡されたカードのような物をじっと見つめると嬉しそうにピョンピョン跳ねて
「ママ〜、ママ〜!!」
とヒラヒラとカードを見せびらかした。
黄色に光るそのカードには「ドクターイエロー」が写っているのが私達にも見えた。
「なんか、めっちゃいいね〜」
「うん、じ~んとした」
それから男の子は曲がっちゃうくらいにドクターイエローのカードを握り締め、再び背伸びで運転席を見つめ続けた。

さて、その家族が目的地に着いた時だ。
その子のお母さんは子ども達とまた手を繋いで、運転席の窓の隣に立つと深々とおじぎをした。
「ありがとうございます」
の言葉が、こちらにまで聞こえてきそうに何度も何度も。男の子はカードをヒラヒラと運転手さんに見せて喜んでいる。

駅と電車には、やっぱりドラマがあった。
あの子、将来、電車の運転手さんになるのかなぁ〜。


それに比べて、バカな大人達は
昼間から
こんなところで
大宴会(笑)


#なんのはなしですか

いいなと思ったら応援しよう!