もう二度と戻らないあの時間。 #マスクドnote2 _15

夏になると玄関のドアを開けて、タイルに水を撒く。
デッキブラシで磨いていくと、
黒ずんだタイルはお化粧したような白さを取り戻していく。
タイルを擦りながら駐車場側をみると、
子どもが水風船を家の外壁にぶつけ始めた。
ピンク、白、黄、紫、色とりどりの水風船たちが壁にぶつかっては、
はじけて落下する。
しぼんで小さく散らばる水風船たち。
コンクリートに色とりどりのアクセントになっている。
「きゃっきゃ、きゃっきゃ」と子どもが笑う。
「たのしいね」そう言わずともずっと笑っているから、
たのしんでいることがわかる。
空の虫かごに水を入れて駐車場に向かって水を撒く。
傾斜がついているから、自然に道路側に水が流れていく。
それが打ち水がわり。
お向かいに住んでいるおじいさんから声をかけられた。
目を細めながら言う。
「たのしそうでいいなあ」
「はい。たのしんでいますよ」
わたしは笑顔で答える。
蚊にかまれるといけないから、蚊取り線香を焚いている。
この独特の匂いを嗅ぐと、夏だなと思う。
掃除は嫌いなはずなのに、
どうして2人でするとこんなにもたのしいのだろう。
駐車場には無造作に並べた白石と、庭の木の枝が置かれている。
「お母さん、この暗号といてみて」
子どもに声をかけられる。
白石はまるに並べられている。
木の枝もイビツなまるの形になってる。
う~ん、さっぱりわからないな。まるが2つ?
「どうして、まるなの?」
「ナイショ!」
駐車場の端に寄せてあった雑草の山から
緑色の草が、ひょいっと持ち出される。
何をつくっているのだろう?
「できた!」
ようやく完成したようだ。
まるの中に散らばった緑の草。
まるの下にも、一本の草が足されていた。
「う~ん。なんだろう。お花?」
「ぶぶー、ちがうよ」
「おまつりの花火! 花火大会いくよね?」
「そうだねえ。お母さんの地元で花火を見よっか」
「あ〜はやくおばあちゃんちにいきたい!」
「もうすぐだよ。あと3回眠ったらいけるよ。お母さんもたのしみだなあ」
水を流してピカピカになった玄関。
家の前の通りにも打ち水をすると、さすがに汗だくだ。
「そろそろ、おうちの中に入ろっか」
2人で家の中に戻る。
一瞬、くらっとした。
危ない、危ない。熱中症になるところだった。
カルピスでつくった氷とカルピスをブレンドして、
ゴクゴク飲む。
こうすると、薄まらずにカルピスが最後まで美味しく飲める。
夏の午後の一幕。
もう二度と戻らないあの時間が懐かしくも愛おしい。
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