黒いものの流出を避けるため我は日々努力するがその努力は今日も報われない #マスクドnote2 _2

玄とは黒色や奥深い悟りの境地を表し関は出入り口やつなぎめ、かかわる、かんぬきなどの意味を持つ。
何気に毎日使っている玄関にそのような意味があると我が親に教えられて以来丁寧に使うように心がけている我だが、なぜそのようなことを告白するのか。
我が心に巣食う黒いものを外へ出さないよう必死に生きるためなのであるのだが周囲はそれを知らない。気づく努力さえせずのほほんと玄関を開け雑に閉める。我がこんなにも苦労をしているというのに。
ときどき、我の努力を認めない輩に噛みつこうとしやるせなさに玄関をぞんざいに扱おうかとも思うが、心のどこかにまだ残っている我の聖なるなにかが諦めてどうする諦めたが最後世界は消滅するのだと鼓舞してくるのだ。
我はその聖なるものに従うことを潔しとするのだ。
黒いものに臆病と罵詈雑言を受けても玄関をガラス細工でできたもののようにそっと扱う。外へ出たがっている黒いそれはそれを見るたびに絶望の雄たけびをあげるのだ。
通勤の最中そっと周囲を見回す。どの顔も玄関をぞんざいに扱っていそうな顔ばかりだ。思わずキリキリと奥歯を噛みしめると横の女が嫌な顔をした。我の崇高な使命を知らない馬鹿女めと思ったのが漏れ出たのであろう。ヒールが我の甲に刺さった。下劣な女め。反対側からは冴えない男がグイグイと鞄の角を押し付けてくる。角は我のみぞおちに入り思わずうめき声をあげた。
会社でも我はこれ以上ないくらいの繊細な手つきで玄関を開ける。後ろでイラつく同僚が我を押す。思わず睨みかかり相手の視線に負け下を向く。部署も社食も黒いものが流れ出ないよう慎重に行動しているのに邪魔だと罵倒されたが、我はこの世を守るためにその罵倒をも甘んじてうけなくてはならない。みじめになればなるほど内なる聖なるものは我にそっと寄り添う。しみじみと幸せを感じて我は日々の努力に集中するのだが。
「仕事しろよ」
心無い言葉が我を切り裂く。
黒いものの流出を避けるため我は日々努力するがその努力は今日も報われない。ため息をつきつつ、そっと玄関を開け素早く家に入った我に黒いものが憐れんだ視線を向け「かわいそうに」とつぶやく。
「そうだな」
思わず同意してしまった我に聖なるものが絶望の声をあげた。しかし、その声が我の耳に届く前に我は黒いものとともに外へと飛びした。喜びの声をあげる黒いものと我は同化する。もう後には戻れない。
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