特別な夏の夜 #マスクドnote2 _13

昔ながらの磨り硝子の引き戸を開けると、カラカラという音の後に「はい、よく来たね」と玄関で笑う祖父が見えた。長い眉毛と優しく下がった目尻、背後に揺れる蚊取線香の香りに迎えられる。
「スペシャルを買ってあるからね」
お盆に祖父が言う“スペシャル”はデラウェアの葡萄のことだ。
小学生の孫たちは皆、もう自分で食べられるのに、小さな一粒一粒の実を祖父は節の太い指で皿に出してくれる。それがまたスペシャルで、紫の薄い皮から顔を出す瑞々しい黄緑はプレナイトの宝石みたいに輝いて見えた。
盆と正月は祖父も父も、いつもより飲み過ぎる。陽気で賑やかで、すっかり酔っ払った2人はふらふらしながら玄関へと進む。それを数歩下がった場所から見ていた。
「はい、よく来たね」
着いたときと同じ言葉で手を振る祖父に「また、来るね」と返して引き戸を閉めると、カラカラの音は少し寂しい。
お店に並ぶデラウェアを見るたびに、いくつもの“スペシャル”があったお盆を思い出す。
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