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陽気なギャルは、2日に1度暗闇でもがいている

2日連続で予定を入れない。
それが私の、自分を守るための大切なルール。

でも、そのルールにたどりつくまでに私は何度も暗闇に沈んだ。
陽気なギャルだった私は2日に1度、誰にも見せない場所で眠り続けていた。



白に近い金髪ロング、バサバサまつ毛、凶器じみたネイル。ミニスカートにルーズソックス。肌が弱いせいで白いギャルだった私は、当時ギャルサークルと呼ばれる集団のリーダーを務めていた。

黒いのと白いのと、髪と肌の色があべこべの集団の真ん中で、私が一番明るく陽気な・・・・・・・・・ギャルだった。一番陽気だから真ん中にいられるのだと、その時は信じて疑わなかった。


主催していたサークルはパラパラ日本一を掲げていたため、昼も夜も集まってパラパラの練習。その見た目に反して、それはそれは真面目にパラパラに向き合っていたものだ。

メンバー間の交流を気にしつつ、週末ごとにイベントに顔を出す。夜はクラブに行って自分のサークルを売りだす。イベントオーガナイザーやDJに顔を売っておく。不特定多数と会話を交わす日々。

今でいうSNSを更新し、インターネット上でも交流を欠かさない。新しいイベントや最新のパラパラ動画は地域で一番最初に振付をマスターする。

そんな活動の甲斐があってサークルの知名度は徐々にあがり、ついにavexのCDにサークル写真が掲載されるほどにまで成長した。




そのリーダーである私は。
実は人付き合いが苦手な私はというと。

一晩サークルのみんなと集まると、翌日は丸一日寝込んでいた。


明るい、距離感近い、誰とでも仲良くフレンドリーで陽気なギャルのイメージとは全く違う。

みんなで全力でパラパラを踊って「いえー!!」「あがるー!」「楽しかったねー!!」「じゃーね!!」と解散して、家に帰る。


そこからはケータイの電源をオフにして布団の中にうずくまってひとり反省会。そのまま動けずに丸一日。寝る、トイレ、寝る、寝る、寝る。寝ても寝ても眠れる過眠状態に入る。ケータイが怖い。呼び出されるのが怖い。みんなの期待に応えられない自分が怖い。なんだこの邪魔な爪。口に入ってくるなよ長い髪。エクステの根元が痛い、ちぎりたい。誰とも関わりたくない。一言もしゃべりたくない。なんであの時あんなこと言っちゃったんだろう。ずっと夢の中にいたい。布団の中の綿になってそのまま埋もれたい──……


飲まず食わずで丸一日。
体が鉛のように重くて何もできないから、お風呂もハミガキもキャンセルで。今頃みんなは練習しているだろうか。いや、もう、考えたくない。誰も私のことなんて気にしてない。
カーテンを閉め切った真っ暗な部屋の中、ひたすら現実から逃げ続けていた。


なぜ私がリーダーだったのか、今思うと不思議で仕方がない。私はどちらかというとガヤの立場でやいのやいの盛り上げるのが性に合ってたはずだけど、盛り上げようとする気持ちが大きすぎていつの間にか真ん中にいた、みたいな感じだったと思う。とにかく「明るい」「盛り上げ役」みたいなものを求められているのが分かっていたから、いつだって誰より陽気じゃなくちゃいけないと思っていた。

本当の自分なんてもの、10代の自分に分かるはずもなく、みんなから求められる理想の自分こそが私のあるべき姿だった。だから布団にうずくまっている日の私は、私じゃなかった。



そんな私の状態を唯一知っているのが、メンバーの1人である友人、クロだった。クロは副リーダーとして私の代わりにサークルの運営をしてくれていた。

クロは誰よりも、黒い。
黒いのに、心は天使みたいに真っ白だった。


ただ騒がしいだけの私と違って、クロは目配り気配り心配りのできる人で、いつだってみんなの中心にいた。私にとって心を許せる特別な人はクロだけだったけれど、クロからみた私はきっと大勢の中の1人に過ぎなかった、と思う。


みんなで集まった日の別れ際、クロは「明日は充電の日ね。任せて~」と軽く言ってネイルが刺さらないよう背中を叩く。それからみんなの方を向いて明日の集合場所や練習内容などをメンバーに伝える。


私はクロの背中を見ながら、何度もクロになりたいと願った。


もしかしたらクロにも黒いところがあったのかもしれないけれど、私の目に映るクロは本当に365日明るくて、クロの周りにいる人みんな自然と笑顔になっていく、そんなやつだった。


クロの背中に全てを託して、一人家に帰ると暗く重い1日がはじまる。
ケータイの充電は満タンなのに、私はいつまでたっても布団から出られない。明日なんて来なければいい、と本気で願っていた。


こんこんと1日眠り続けた翌日、ようやくケータイを開くと山のような通知がきていて、嬉しさ半分、煩わしさも半分覚えながらも長い爪でポチポチと返信していく。


それから顔をメイクでガチガチに固めて陽気なギャルを作り上げる。

元気がない時ほど髪の毛を盛っていたのは、ライオンのタテガミみたいに自分を奮い立たせたかったのかもしれない。まつ毛をバチバチにあげ、オールという名の徹夜をしてボロボロのまま笑顔でばいばいする。




2日に1度いなくなる私に反して、私以外のメンバーは毎日集まっていた。
昼も夜も、なんなら翌朝まで、みんなずっと一緒に過ごしていた。多くは居場所がなくて、1人では居られなくて、肌を寄せ合って過ごすことを心の拠り所にしてた。少しでもこの集団から離れたくない、といった具合に。


私もメンバーや友だちは大好きだし、踊るのも好きだし、みんなで過ごす時間は楽しかった。それは本心。

でも、疲れる。
一日中一緒にいると苦しい。一緒に過ごす時間が長くなるほど息が上手く吸えなくなっていく。


もっと遡れば、中学生の頃から一人になりたくて仕方がなくて、教室ではうまく息が出来なかった。なんでトイレに一人で行けないんだろう?休み時間ぐらい静かに過ごしたいと思っても、その考えは異端だったし、私だけがこの世界で普通じゃないと思って過ごしてきた。

でも私が中途半端なのは、それでも本当に1人ぼっちで居られるほど強くもなかったこと。


給食の時間や放課後は友達と楽しく過ごしたい。
だけどトイレは一人で行きたい。


放課後、みんなでカラオケ行くのは好き。
だけどその後さらにファミレスには行きたくない。

マックでおしゃべりするのは好き。
だけど2時間経ったら帰りたい。



じゃあなんでギャルサークルのリーダーなんかしてるのかって、単純にギャルファッションが好きだったから。「明るい時の私」は、はしゃぐのが好きだったから。



ちょっと無理して2日連続でイベントに行った日がある。どうしても行かなくちゃいけないイベントが重なってしまい、どちらも断れなかった。


陽気なギャルは2日目の夜、お立ち台の上で過呼吸を起こして倒れた。やらかした、と思ったけれど助けに来てくれた誰も慌てなかったのは、日替わりで誰かしらそんな調子だったから。


そして他のみんなと絶望的に違うのは、そういう悲しい気分やつらい気分の時でさえ、私は1人で過ごしたかったということ。支えてくれようとする手を、振り払った。



クロはそんな私の側に寄り添い、

「普通つらい時は誰かに側にいて欲しいよね。みんなそうだよ。」

と言葉をかけてくれた。


……普通は。
つらい時、悩んでる時に1人でいたくないものなんだ。

確かにどんなマンガでも、つらい時には誰かが駆けつけなぐさめてくれて「友だちがいてくれてよかった」と言う。楽しい時もつらい時も一緒に過ごす。「楽しい気持ちは倍に、つらい気持ちは半分にしよう。」それが普通だよね?というように。


つらい時は1人にしてほしい。放っといて。入ってこないで。友だちと過ごすのは元気な時だけ。ずっと陽気な私だけでいさせて。
そんな風に考える人、その時には私以外に見つからなかった。



せっかく友だちが側に居てくれてるのに、1人にさせて欲しいと思う時がある。だったら一生ひとりでいればいい。……だけどずっと1人はいやだ。

絡まったエクステみたいにめんどくさくて、髪も肌も心まであべこべで、人でなしのろくでなしだと自分が一番分かっていた。何が一番陽気で明るいギャルだよ笑わせんな。


でも、もう、どうしたらいいか分からない。







そんな私の背中にむかって、誰よりも黒いクロは言った。


「アンタは寂しがり屋のひとり好き」


何それ。


「私は寂しがり屋で、なんでもみんな一緒が好き。アンタは寂しがり屋の一人好き。それだけ。」


それだけ?



「それだけのこと。充電が必要なの分かってるから、毎日一緒にいなくていいよ。本当は私は毎日一緒にいたいけどね。充電終わったら会おーよ。」


そう言ってクロはまた、ネイルが刺さらないように黒い手で背中を叩く。



この言葉は私の中にストンと落ちてきて、私の人生をずっと支え続けている。ろくでなしの人でなしが、寂しがり屋のひとり好きへと進化したのだから。


一人でいることがつらくて一人になりたくない人が集まる場所で、一人になりたがる私がいる。つらいときに誰かに寄り添って欲しい人もいれば、つらい時こそ一人になりたい人もいる。

キャーキャー騒いでパラパラ踊って今が一番幸せ!!みたいな顔したギャルは、2日に1度暗闇でもがいてる。


寂しがり屋のひとり好きな私はそうやって2年間、陽気なギャルを続けた。黒い手に背中を叩かれながら──。


あれから20年が経った。
クロはオーストラリアに移住して、あの頃よりももっと黒くなった。

クロの周りには今もたくさんの人が集まっているし、今やイルカやクジラまでも集まるようになったそうだ。


私は今日も、予定は1つだけ。
明日は布団にくるまっているかもしれない。

1日おきに休まなくちゃならないことをずっと負い目に感じていたけれど、受け入れたらそういうものだと楽になった。


ギャルじゃなくなってもやっぱり私は「陽気な私」でいたい。
だから明日の予定は、真っ白のままにする。


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