「ただいま」が言いたくて #マスクドnote2 _14

「ただいまー」
買いものから戻った私は玄関で靴を脱ぎ、いつものように靴をそろえようとして、しゃがみこんだ。
・・・あれ?靴がない。
今、脱いだばかりの靴がなくなっている。辺りを見回し、靴箱の中まで探してみたけれど、どこにもなかった。
「おかしいな・・・」
かすかな違和感を抱きつつ、リビングに向かう。
「パパ―!香澄ー!いないのー?」
家を出るときにはいたはずの夫と娘が、どこにもいない。姿は見えないのにテレビや電気はつけっぱなしで、テーブルの上には香澄の食べかけのお菓子がちらかっている。
何かあったんだろうか?
先ほどの微かな違和感がどんどんふくらみ、不安へと形を変えていく。
二人を探そうと2階に上がりかけたとき、テレビが地元のニュースを伝えはじめた。
きょう午後3時ごろ、○○市△△町の交差点で、右折しようとした大型トラックと直進してきた自転車が衝突しました。
この事故で、自転車に乗っていた○○市内に住む30代の女性が頭を強く打ち、意識不明の重体です。
警察によりますと、現場は信号機のある交差点で・・・・・・
画面にうつし出された映像から目が離せない。
これって、さっき買いものに行く途中で通った道?
あの自転車、私のものに似てる?
トラックとぶつかった女性って・・・?
フラッシュバックのように記憶が脳を突き刺した。
「そっか。そういうことか」
全てを悟った私は、再び玄関に戻った。
「パパと香澄に、ただいまを言いたかったのにな」
玄関のドアを開けながら、そばに立てかけてある姿見に目をやると、そこには何も映っていなかった。
(おわり)
▼企画概要はこちら
▼他の皆様の作品は下記マガジンで読めます
いいなと思ったら応援しよう!
本田すのうは皆様からのご支援で活動を続けています。