「易は数なり」──1000年前の陰陽師が算木で宇宙を計算していた話
今回のnoteは、和算探究シリーズ第1回「陰陽師は理数系だった!?──算木で宇宙を計算した男・安倍晴明」をきっかけに、「数を物理的に扱う」という人類の知恵と、算楽塾が大切にしている「体験から到達する」学びの設計について綴ります。
授業の詳しい様子はこちらのブログをご覧ください。
👉「陰陽師は理数系だった!?──算木(さんぎ)で宇宙を計算した男・安倍晴明」
「算術を学ぶと人の病気を治したり、人を呪ったりすることができる。」
これは平安時代の説話集『今昔物語集』にある一節です。算楽塾ラボ所長・島上直人先生の教材『数学者への道』No.2に引用されているこの言葉を初めて読んだとき、私は思わず笑ってしまいました。
「数学で人を呪う。」
でも笑いながら、何か大切なことを思い出した気がしました。
■ 「数学がこわい」という感覚の正体
算数・数学が苦手な子どもたちと接していると、「数学がこわい」という感覚を持っている子に出会うことがあります。
「間違えたらどうしよう」「先生に怒られる」「自分には向いていない」
そういう恐怖感と、「算術を呪術と考えていた」平安時代の人々の感覚は、案外似ているかもしれない。
「わからないもの」「自分の手に負えないもの」への畏れ。
でも安倍晴明は、その「こわいもの」を誰よりも深く理解していた。だから「宇宙のルールを読み解く者」として、1000年後も語り継がれている。
算楽塾が「わからなくていい。それが、考える力の始まりだ。」という言葉を大切にしているのは、この「こわい」という感覚の正体を知っているからです。
■ 算木が教えてくれた「数の本質」
今回の授業で子どもたちに体験してもらった「算木(さんぎ)」は、細い棒を並べて数を表す道具です。
「数を記号として書くのではなく、物として置く。」
これが算木の本質です。
高校で地理歴史を教え、大学院で教育学を研究してきた私が、40歳を過ぎてから数学の本を読み始めたとき、何度も「こんな視点があったのか」と驚きました。そのひとつが、この「数の物理性」という概念でした。
私たちは当たり前のように「3」という記号を使います。でも「3」という形の線が「3つある」という量を表すようになったのは、人類の長い歴史の中で少しずつ積み上げられた発明の結果です。
算木は、その発明の過程をそのまま手の中に感じられる道具です。
棒を置く。動かす。取り除く。相殺する。
「数を計算する」のではなく、「物を動かして答えを見つける」という感覚。これが、1000年前の天才数学者が使っていた思考の方法でした。
✂️ 今だけ無料で体験授業に申し込む 👉 https://sangakujuku.com/contact
■ 「0を発明した人」より「0がなくて困った人」
授業の中で、一番子どもたちが困惑した場面があります。
算木で「105」を表そうとした瞬間です。
百の位に棒を置く。一の位に棒を置く。では十の位は?
「0という記号がない時代、この空っぽをどう表したと思う?」
子どもたちはしばらく黙ります。
「何も置かない」という答えに気づいたとき、次の問いを重ねます。
「では、203と2003を算木で表したとき、どうやって区別する?」
この問いで、子どもたちは初めて「0の偉大さ」を体感します。
教科書に「0はインド人が発明した」と書いてあっても、それは知識として入ってくるだけです。
「0がなかったら203と2003を区別できなかった」という体験の後に「0はインド人が発明した」という知識が入ってくるとき、「だから人類の歴史が変わったんだ」という実感が生まれます。
算楽塾が大切にしているのは、この「体験の後に知識を渡す」という順番です。
■ 陰陽師と現代のコンピュータの共通点
授業の最後に子どもたちに伝えたことがあります。
晴明たちが算木で使っていた「位取りの原理(十進法)」は、現代のコンピュータが計算に使う基礎原理と同じだということ。
コンピュータは「0と1」の2進法で情報を処理します。でも「各桁に1つの数字を置き、その桁の重さで全体の値を決める」という位取りの原理は、算木と同じ発想の上に立っています。
1000年前に晴明が算木で宇宙を計算していた仕組みが、今日のスマートフォンの中に生きている。
「算術を学ぶと人を呪える」と恐れられていた知恵が、今では全人類の手のひらの中に乗っている。
この連続性に、私はいつも震えるような感動を覚えます。
■ 「老若男女が熱狂した」という事実
このシリーズに「サムライたちの知恵比べ」という名前をつけなかったのには、理由があります。
江戸時代、数学を楽しんだのは武士だけではありませんでした。農民が畦道で考え、商人が帳簿の傍らで解き、女性が神社に算額を奉納した。吉田光由が書いた算数書『塵劫記(じんこうき)』は、江戸時代のベストセラーでした。その読者は身分も職業も問わない「誰でも」だったのです。
算術は「こわいもの」でも「天才だけのもの」でもなく、老若男女が遊びとして楽しんでいた。その文化を、算楽塾の授業で子どもたちに届けたい。それがこのシリーズを設計した理由です。
「わからなくていい。それが、考える力の始まりだ。」
1000年前の陰陽師が算木を動かしていたように、算楽塾の子どもたちも今日、指先から数の世界に触れました。
次回は、江戸のベストセラー算数書『塵劫記』に登場する「継子立て(ままこだて)」という生き残りゲームに挑みます。30人の円陣、10番目ごとに除かれていく──論理と規則性のスリルを、体験で味わいます。
#算楽塾 #安倍晴明 #算木 #和算 #陰陽師 #位取り #ゼロの発明 #算数 #数学 #考える力 #小学生 #教育哲学 #探究学習 #江戸時代
算楽塾 塾長 山下洋輔
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
算楽塾では、算数をテーマにした授業を毎週行っています。
授業の詳細は算楽塾ホームページのブログから。
また、算楽塾の教育哲学をまとめた電子書籍を
無料でプレゼントしています。
お読み頂けたら嬉しく思います。
🔍 授業の詳細はブログにて
📖 電子書籍を無料で受け取る
「一生モノの学力を育てるために」。算楽塾の教育哲学をまとめた一冊を無料でお送りしています。読んでみて、合わなければそれで構いません。
