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おでん、時々、明太子

シロクマ文芸部の企画参加作品

まえがき

寒い夜に、ふっと食べたくなる“おでん”。
その湯気の向こうには、家族の笑い声や生活の気配があって、
ただの料理以上の物語が生まれることがあります。
今日は、そんな“鍋の具ひとつひとつ”に宿る、
母と子のあたたかい時間のお話です。


本文

鍋の具は決まって、玉子、大根、こんにゃく、厚揚げ。
このラインナップを見るだけで、我が家にお金がないのがすぐわかる。
だって、牛筋が入っていないもの。

「おかあさん、牛筋が入ってないと、おでんの名に恥じるわよ?」

「ごめん、ごめん。諸事情がございましてね。でも、その代わり“畑の肉”が入ってるでしょ」

「畑の肉? なにそれ。あなた栄養士なのに知らないの? ほら、検索してみなさい」

――大豆。

厚揚げが牛筋の代わり?
「そうよ。余計に入れておいたから、柚子胡椒で食べてみて」

そう言いながら、母は鍋をコトコトかき回す。
すると、浮かんでくるのは具材だけじゃない。

「おかあさん、今夜のおでん、なんか珍客が入ってるわよ」

「ああ、その人ね。寒そうだったから入れてあげたの」

「だからって、これは……」

母の“おでんの懐の深さ”は、たまに方向性を間違える。

「はい、明日のお弁当にも入れるから、少し残しておいてね」

「えぇー…お弁当もおでん? おかずになんないよ」

「特別出演の明太子も入れておくから」

「えっ、明太子?……うん、わかった」

湯気の向こうで、親子の笑い声がふくらんでいく。
その時――。

「ちょっと待った! 僕はおでんじゃなく、ちゅーるんとまぐろがいい……」

最後に顔を出したのは、うちの小さな“珍客”だった。


あとがき

鍋を囲む時って、食べる以上に“話すこと”が温まります。
具材がしょぼくても、牛筋がなくても、
湯気の向こうで誰かが笑ってくれたら、それでごちそう。

そんな気持ちを込めて書きました。
あなたの家のお鍋にも、きっと小さな物語が湧いているはずです。
※この物語はフィクションです。

シロクマ文芸部のお題に書かせて頂きました。
お題をありがとうございます。


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