噓から出た実
毎週ショートショートnoteの企画参加作品
まえがき
人がいなくなった場所にも、
静かに息をしている時間があります。
忘れられた寺と、そこへ通った一人の若者。
その小さな出会いが生んだ“ほんとうの実り”のお話です。
本文
秘境と呼ばれる場所に、小さなお寺がありました。
昔々、宝くじが当たると評判になり、毎日たくさんの人が訪れ賑やかでした。
しかし、その欲望を小さな寺は一心に背負い、やがてさびれていきました。
ついには「大嘘寺」という不名誉な名前までつけられ、今では誰もお参りに来なくなりました。
そんな寺に、一人の若者がやってきました。
寺の周りをきれいに掃除し、お堂の中も磨きました。
見違えるほど綺麗になった寺に、若者は家から持ってきた白いご飯とお茶をそっと置きました。
「粗末なものですが、どうぞお召し上がりください。また明日やってきます。」
若者は、それから毎日寺に通い続けました。
そして一年ほど経ったある日、静かに寺へ別れを告げました。
大嘘寺と名のついたその寺は、若者のインスタで人気を博し、
今では“秘境の寺”として知られるようになりました。(359字)
あとがき
若者がしたことは、特別なことではありません。
掃除をし、ご飯とお茶を置き、ただ静かに通い続けただけ。
けれど、その“ささやかな手”が、眠っていた寺の気を呼び起こしました。
嘘から生まれた名前の寺に、いつの間にかほんとうの実が芽吹いたのです。
※この物語はフィクションです。
毎週ショートショートnoteのお題に書かせて頂きました。
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