落とし物はハートのかけら
(片想い文芸部「落とし物」お題作品)
片想い文芸部のお題に書かせて頂きました。
お題をありがとうございます。
🕊まえがき
落とし物。それは物だけではなく、時には「気持ち」や「勇気」だったりします。
誰にも気づかれず、そっと落としてしまったもの――それが、いつか誰かに届くかもしれない。
今回は、そんな淡くて不器用な恋のひとコマを描いてみました。
🌸本文:落とし物はハートのかけら
「落とし物ですよ」と、後ろから声をかけられた。
振り返ると、心平くんが立っていた。
胸の鼓動が鋼のように打ち始め、まともに顔を見られない。
私はハンカチを奪うように受け取ると、思わず駆け出してしまった。
夢中で走り、校庭の裏の大きな木の下で息を整えていると、どこからか声が聞こえてきた。
「俺はここに立って、もう百年くらいになるな。
この木の下で“告白とやら”をして、成功した奴、ふられた奴、いろいろ見てきたぜ。
今、走り込んできたお前も、そのどちらかじゃないか?」
「いいえ……まだ、告白すらしていません。
顔もまともに見れないから、話すことすらできません。」
木は少しため息をついてから、こう言った。
「おめえさん、人生というのに本気で立ち向かったことがあるのかい?
ここで告白して振られた奴も、真剣に向き合って、結果が“振られた”だけで、
人生まで“振られた”わけじゃねぇんだぜ?」
私は言った。
「私は……緊張しすぎるくらい緊張するから……たぶん、一生このままだと思います。
このままでいいんです。」
そう言って、私は木のもとから逃げるように走り去った。
教室に戻っても、心平くんの姿はもうなかった。
放課後、なんとなくまた大きな木のそばへ行ってみると、心平くんと女子が並んで立っていた。
とっさに物陰に隠れ、会話を聞いてしまう。
「人の話を盗み聞きするのは、ルール違反だぞ」と木の声。
ハッとして立ち去ろうとしたその瞬間、私はつまずいて転んでしまった。
「痛っ……」
声を出してしまったことで、心平くんに見つかってしまう。
「お前、急に走り出すから心配してたんだ。転んだみたいだけど、大丈夫か?」
また胸の鼓動がドクンドクンと高鳴る。
逃げたかったけど、足をくじいて動けない。
心平くんはそんな私を、保健室まで連れて行ってくれた。
女子の突き刺すような視線を感じながらも、心の中はまるで南国の陽だまりのように、あたたかかった。
落とし物のハートのかけらは――
心平くんの心に、届くのだろうか。
片桐みかん
(2025年6月26日)

🍀あとがき
誰かを好きになるって、うれしいけど、こわい。
勇気を出すことも、心を見せることも、まだできない。
けれど、少しずつでも前に進んでいけたら――
そんな願いを込めて書きました。
あなたの心にも、小さな“かけら”が届きますように。
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