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喫茶店の窓際席

「一枚の写真から文芸賞」の企画に参加

喫茶店の窓際席
私はいつも、決まった時間にこの喫茶店に来て、窓際の席に座る。
午前のやわらかな光がカーテン越しに差し込み、
焙煎した豆の香りが心をほぐしてくれる。
店員も常連の私を覚えていて、軽く会釈をくれる。
その日は、仕事の締め切りに追われて少し遅れて入店した。

いつもの“定位置”には、見慣れない女性が座っていた。
もちろん専用席ではないけれど、他の席だとどうも落ち着かない。
店員が水を置きながら、「すみません、予約席にできなくて」と
申し訳なさそうに言った。
私は笑って首を振り、コーヒーを頼む。
窓際の女性は本を開き、長くそこに座っていた。
その横顔を見つめるうちに、高校時代の夏が蘇ってくる。

――彼と彼女と私の、恋の物語。
私と彼女は親友だった。私が彼を好きなことも、彼女は知っていた。
そして私は、彼も同じ気持ちだと信じ込んでいた。
ある放課後、校庭の裏庭へ歩いていく二人を見つけた。
胸の奥がざわつき、思わず後を追った。
そこで彼は、彼女に告白し、彼女は「好き」と答えた。
その瞬間、二人を同時に失った。

もう普通には戻れないとわかって、私は二人から距離を置いた。
親友の裏切り――そう思い込んだ私は、親に頼んで転校した。
それは深い傷となり、それ以来、彼以外の男性を好きになれなかった。
現実に戻ると、窓際の女性が席を立ち、店を出ていくところだった。

テーブルには、一冊の本が置き忘れられている。
私は急いでそれを手に取り、店を飛び出した。
「すみません、本を忘れてますよ」
振り返ったその顔――親友の渚だった。
転校して以来、一度も会っていなかった彼女。
渚は私に気づき、
「久しぶり。元気にしてた?」と微笑んだ。
本を受け取った彼女は、軽く会釈して人混みに消えていった。

それから私は、翌日も、その翌日も喫茶店に通った。
心は高校時代に戻り、彼と渚のその後が気になって仕方なかった。
再会から一か月ほど経った夏の日。
渚が小さな男の子を連れて店に入ってきた。
「一人息子よ」と笑って紹介する渚。
彼と結婚したのか、聞きたかったが言葉にならなかった。

3人で窓際席に座る。渚は息子の話を楽しそうに続け、
高校時代のことには触れない。
思い切って私は尋ねた。
「いつ結婚したの?」
「5年前。大学を出て、親の会社に就職して、そこで知り合った人と」
私はうなずき、それでも聞かずにはいられなかった。

「……彼は?」
渚は息子の頭をなで、少し笑った。
「あなた、彼のこと聞きたいんでしょう? 彼はね、あなたが転校してすぐ留学して、そのまま外国で暮らしてる」
そして視線を落とし、静かに続けた。

「お互い好きだったけど、親友が好きな相手と付き合うことはできなかったの。あなたがいなくなって、友達はできたけど、親友はできなかった」
渚は私をまっすぐ見つめる。
「この喫茶店に寄ったのは偶然。でも、あなたに会えて……これは奇跡だと思ったの。私、結婚して、子どももいて、普通の幸せを感じてる。でも、ずっと埋まらないものがあって、それがあなただった」

そして、少し照れながら言った。
「もし同じ気持ちなら……やり直さない? 
ここから始めるのはどうかしら」
窓の外では、夏の光がゆらゆらと街を包んでいた。
私の心は、もう決まっていた。



あとがき
一枚の写真から文学賞に書かせて頂きました。
私にとっては、写真から短編小説を書くことは初めての
挑戦みたいなものでした。
やっぱり、無理かな?と何度も思いましたが、
最後まで書けたので、読んで頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。


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