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影として生きる

毎週ショートショートnoteの企画参加作品

【まえがき】

華やかな世界の裏側には、
いつも“影”として支えてくれる存在がいるのかもしれません。
今回のお話は、世界的に有名な書道家と、
彼の影となって生きるカワウソとの小さな秘密の物語です。
少しクスッとして、少し考えさせられて、
そして最後はふわりと軽くなる――
そんな読後感を楽しんでいただけたら嬉しいです。


【本文】

影として生きる

個展会場に、世界的に有名な書道家・桐生院はいた。
桐生院の本は山積みされ、サイン本は次から次へと売れていった。

「先生、先生の書かれる字は、人間のものとは思えない筆の力ですね。素晴らしい。」

桐生院は背中に冷や汗をかきながら、
「心で書いていますので、毎回あのような感じになるのです。」
と答えた。

名声は得た。だが、桐生院はいつも“影”と暮らしている。

自宅の書斎にもどると、内庭で遊んでいるカワウソが声をかける。

「先生、今日の個展うまくいった?」

「ああ、まぁまぁな。」

「あら、元気ないじゃない。」

「俺が書いた字が評価されていないことに、いつも後ろめたさを感じている。
もうやめてしまおう、いつもそう思っている。
しかし、俺だけ退くわけにもいかず、しがらみが俺を縛っているんだ。」

「カワウソ字として発表したら? すっきりするわよ。」

「そ、そんな…ことは…できない…」

「ほら、できないじゃん。いいのよ、私は影で生きる。
さ、次の個展まで時間がないわよ。」

「え…まぁ…やってみるか……はー……」

おしまい。

イラスト:ChatGPT

【あとがき】

桐生院とカワウソ。
華やかな個展で称賛される“表の顔”と、
静かに才能を支える“影の存在”。
どちらが欠けても作品は生まれないのだと思います。

生きていると、ときどき「影でいいのか」と迷うことがありますが、
影だからこそ生まれる美しさもきっとある。
そんな気持ちを込めて書きました。
読んでくださったあなたの心にも、小さな灯りがともりますように。
※この物語はフィクションです。

毎週ショートショートnoteのお題に書かせて頂きました。
お題をありがとうございます。


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