初めてのデート
🍊第49回 3つのお題(昭和ノスタルジー)
🎈お題①:「カセットテープの恋」
🐾お題②:「夕暮れの赤電話」
⏳お題③:「ネオンの向こうの純喫茶」
お題④イラストから空想した世界を書いて下さい。
【まえがき】
今のようにスマホなんてなかった時代。
好きな人に電話をかけるだけでも、勇気が必要でした。
赤電話に10円玉を握りしめ、切れそうになる声を追いかけながら、恋をしていた時代のお話です。
【本文】

「もしもし、渉くんをお願いします」
「あなた、どなた?」
「あ、あの…友だちです」
「ちょっと待ってな」
しばらく待つ間に、がちゃん、と音がした。
私は慌てて赤電話に10円玉を入れた。
「紗季ちゃん、どうした?」
「あの時はごめん…」
そう言った瞬間、プープープーと音がして電話が切れた。
紗季は顔を夕暮れみたいに真っ赤にして、赤電話から走り去った。
家へ帰ると、真っ暗で誰もいない。
紗季は、いつもの癖でヘッドフォンをつけ、カセットテープのスイッチを押した。

お気に入りの曲が、今日は妙に切なく聞こえる。
もう少し10円玉があったら、ちゃんと話せたのに。
明日、学校で何と言おう。
そんなことを考えながら、紗季はベッドへ倒れ込んだ。
次の日の昼休み。
渉くんが、机に肘をつきながら笑った。
「昨日の電話、よう聞こえんかった。なんて言うた?」
紗季は心の中でつぶやく。
――聞いてないの?
――私、勇気出して電話したのに。
けれど、口から出た言葉は違っていた。
「え、何でもない。大したことやないの」
「うわー、めちゃ気になるなぁ。なぁ、なんて言うたん?」
「だから、大したことやないて」
「そうか。なぁ、今日うちの両親出かけるんや。デートせーへんか?」
紗季は慌てて言った。
「あんた、デートって…。変なこと考えてないやろな」
「え、変なことって…。うわー、おませやなぁ」
顔がみるみる赤くなり、渉くんはますます面白そうに笑った。
「よし、18時に純喫茶で待っとる。来るまで待っとるでー」
チャイムが鳴り、昼休みは終わった。
けれど紗季の頭の中は、午後の授業どころではなかった。
純喫茶って、どこ?
ネオン街の純喫茶、いくつあると思ってるん。
しかも渉くんは違うクラス。放課後は部活。
どうしよう。
そんなことを考えているうちに、テスト前で部活が休みだと知り、紗季は急いで家へ帰った。
服を選ぶ。
どれを着ても今ひとつ。
時間だけがどんどん過ぎていく。
――ああ、初めてのデートなのに。
紗季は少し薄着のワンピースとサンダルを選び、家に書き置きを残して飛び出した。
夕暮れに染まるネオン街。
純喫茶の扉を開けると、高校の先生らしき人がコーヒーを飲んでいた。
紗季は慌てて扉を閉めた。
――うわっ、見つかったら停学や。
――なんで待ち合わせが純喫茶なん。
ぶつぶつ言いながら、別の純喫茶の扉を開ける。
すると。
「おーい、ここ」
渉くんが、奥の席で手を振っていた。
「この前の店、先生おったからびっくりした」
「ここは大丈夫や」
「なんで?」
「まぁまぁ。何食べる?」
メニューを見ると、ナポリタン、ミックスジュース、ホットケーキ。
どれも美味しそうだった。
「私、ナポリタン」
「よし、特別にエビフライもつけたる」
「え、高いからいらん」
「大丈夫やって」
そこへ、水を持ってきたマスターが、にやにやしながら言った。
「いらっしゃい。渉のガールフレンドさんですか?」
紗季は吹き出しそうになる。
マスターはさらに続けた。
「ふつつかな息子ですが、どうぞ末永く世話してやって下さい」
紗季は、含んでいた水をマスターにぶちまけてしまった。
「うわっ!」
「水のしたたるいい男にしてもろうて、おおきに」
そう言うと、マスターは大笑いしながらカウンターへ戻っていった。
「なぁ、マスターって、お父さんなん?」
「ああ。母さんとは離婚してるけどな。僕には父さんや」
「ふーん…。あんたも色々あるんやな」
少しだけ、大人びた空気が流れた。
けれど次の瞬間。
「で、電話で何言うたん?」
「あんた、しつこいな」
「ああ、別名“納豆”やからな」
「なんや、それ!」
二人は顔を見合わせて笑った。

帰り道。
日が沈み、星が少しずつ輝き始めていた。
渉くんが、急に真面目な顔で言った。
「なぁ、この間、ごめん」
「私も、ごめん」
少しの沈黙のあと。
「なぁ、僕ら、大人になっても一緒におりたい」
紗季は小さく笑った。
「うん。私も」
二人は、星の輝く道を並んで歩いて行った。
次の日。
紗季は職員室へ呼ばれた。
「昨日、純喫茶にワンピースで来てなかったか?」
「いいえ、先生の見間違いです」
先生は少し笑った。
「そうか。秋口に、あんな薄着の子がおるわけないか」
――やっぱり見られてた…。
そう思った瞬間。
「で、お前、進学どうするんや?」
先生の声が遠く聞こえる。
紗季の頭の中では、
――僕ら、大人になっても一緒におりたい。
その言葉だけが、何度も繰り返されていた。
【あとがき】
10円玉を握りしめていた時代。
好きな人に会うだけで、胸がいっぱいになった時代。
赤電話も、カセットテープも、純喫茶も、今は少なくなってしまいました。
けれど、あの頃の恋のときめきは、きっと今も心のどこかで、ネオンの向こう側に残っているのかもしれません。
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