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恋の種あかし

まえがき
「アイデア」――それは、希望の芽か、絶望の種か。
この物語は、アイデアを売る不思議な店と、報われない片想いを抱く一人の男をめぐる寓話です。
思いを伝えられずにいる人が、もし“効果テキメン”の魔法を手に入れたら?
そこに宿るのは期待か、それとも覚悟か。
切なくも静かな結末に、そっと心がふるえる一編です。


本文:恋の種あかし
片桐みかん

「アイデアを売っていると聞いてきました」
店を訪ねてきた男は、まっすぐにそう言った。
「恋の種があると聞きまして」と付け加えると、
店主はニヤリと笑って言った。
「ありますとも。ただし、効果によって値段は変わりますよ。さて、どの程度の効き目をご所望で?」
男は、片想いに終止符を打つ覚悟をしていた。
効果テキメンをください」と、迷いなく答えた。
店主は棚の奥から「アイデア」と書かれた箱を取り出し、ひとつの小瓶を差し出した。
「これです。相手があんたに少しでも好意を抱いていたら、反対にあんたを嫌う
逆に、好意がまったくなければ、晴れて結ばれる。まさに効果テキメン。どうします?」
男はうなずいた。
彼女には、もう婚約者がいる。自分には勝ち目がないこともわかっている。
だが、最後に一度だけ、ほんの小さな希望に賭けてみたかった。
効果は半日。
男は彼女をカフェに呼び出した。
「預かっていた手帳を返す」という口実で。
彼女は来た。いつものように、他人行儀なまなざしで。
コーヒーが運ばれてきた。
電話が鳴り、彼女が少し席を外した隙に、
男は効果テキメンを、コーヒーに数滴――いや、すべて入れた。
戻ってきた彼女は、「これから出かけなきゃ」と言って立ち上がろうとした。
男は言った。
「せっかくだから、飲んでいってよ」
彼女は気のない顔で、コーヒーを飲み干した。
そして、手帳を受け取り、足早に去っていった。
数時間後、電話が鳴った。
彼女からだった。
「…私、婚約したの。もう呼び出さないで。」
冷たい、けれどどこかで、彼女なりの“けじめ”の声。
男は呆然としたまま、アイデアの店へ戻った。
店主は言った。
「私は申し上げましたよ。彼女に好意がないなら、結ばれると。
…つまり、彼女はほんの少し、あなたに何かを感じていたのかもしれませんね。」
男は気づいた。
「まさか…俺の思い違いだったのか…」
残ったのは、
**高額な代金と、取り返しのつかない“ほんの少しの可能性”**だった。

イラスト:ChatGPT

あとがき
「もしも、アイデアが現実になるなら――」
その願いが導いた先は、甘い奇跡ではなく、苦い真実だったのかもしれません。
けれど、それでも人は“試してみたくなる”のが恋というもの。
片想いとは、言えなかった言葉たちの海
その海に、ひと粒だけ落とされた“恋の種”のゆくえを、
私たちはきっと、静かに見届けてしまうのです。

片想い文芸部のお題、「アイデア」に書かせて頂きました。
お題、ありがとうございます。


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