【旅と国内外|歴史と文化の話】 〜旅人、京都に上洛す〜
親愛なる読者の皆様、ご無沙汰しております。
今年のお盆休みは、父を連れて江蘇省の蘇州へ行きたかったのですが、航空券が通常の二、三倍も値上がっていたのでバカらしくなりました。ちょうど台風が中国大陸に向かっているということもあり、行き先を変更。
久しぶりに京の都へ上洛することにしました。ちょうど以前から京都の禅宗寺院(京都五山と林下)を調査してみたいと思っていたので、この機会に。

夏季は清水や金閣・銀閣といった、よほどの観光地ではない限り、オーバーツーリズムで辟易するようなことはありません。




美しい京都の写真をあげていけばキリがないので、今回は建仁寺の方丈中庭を訪れた際に見た景色について、旅行記から抜粋して載せたいと思います。夏の京都の美しさを一文に凝縮したものです。
八月八日の日記、建仁寺にて

ここの最大の魅力はなんと言っても、和室から見える中庭の景色だ。薄暗い部屋の向こうに、夏の太陽光を浴びた苔と木々の放つ緑が輝いている。部屋から見る庭園は、枯山水よりも、適度な規模の苔庭や樹木を植えた庭園の方が緑が縁取られて良いかもしれない。
さらに、この部屋には驚きの創意ともてなしが用意されている。
美しい庭を望む部屋の畳に、黒漆塗りの箱が盆の上に乗せられている。そしてその箱には、氷の角柱が置かれているのだ。氷は冬季に凍った山の湧き水を、氷室に保存しておいたものだろう。一切の不純物がなく、まるで水晶のように透き通っており、向こうにある庭の緑の輝きと一体になっている。
当然、氷の柱が一つあったところで、部屋が涼しくなるわけがない。だが、漆の箱に入れた貴重な氷の柱を部屋に置くことで、空間に凛とした上品さを与え、夏という季節ならではの風流を愉しんでいるのだ。
そしてこれは同時に、寺を訪れた人々がこれを目にすることで、一服の清涼感を味わえるようにという、細やかで洗練されたもてなしでもある。
……なんという清涼感、なんという創意!!
これはただエアコンが効いた部屋を用意するよりはるかに高度なもてなしの心。都の纏う高貴な風情の賜物である。

あとがき
京都は言うまでもなく、世界で最も美しい都市の一つです。私の専門である15世紀、日本一の都市は間違えなく京都でした。
今日でも日本は東京一極集中型ですが、かつては政治・経済・文化のほとんど、国力の大半が都に集中していました。応仁の乱以前であれば、欧州最大の都市であるパリよりも豊かで文化的な都市だったと言えるでしょう。
日本の伝統美、特に日本の侘び数寄や禅宗を実地調査するなら、都に上ることは必須です。
私の友人に、日中関係を大学で学んでいる日本人の友人がいるのですが、彼は中国に行ったことがありません。日本の学生が一人でいきなり中国へ行くと言うのはハードルが高い。そういう人に、私はこう言うでしょう。
「中世の中国の美術や文化、日中の文化交流の歴史を、日本にいながら肌で感じたいならば、横浜の中華街もいいが、まずは京都に行ってみると良い」
京都に連立する寺院の建築技法、襖絵、茶器などの陶磁器、禅宗仏教の教義や儀礼は、中国から伝わったものが非常に多いからです。
京都は中国から最新の文化を取り入れ、日本の風土に合うよう工夫して、新たな独自文化を築いてきました。その独自の文化こそ、京都の雅さであり、日本の伝統文化に大成した、というわけです。
つまり京都は、日本伝統が最も色濃い街である上に、洗練された中華伝統文化が最も定着した街、とも言えるのです。
