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親切な教師ほど陥る「解決の罠」~母親から「死ね」と言われた生徒にどう向き合うか?



悩みを抱える子どもたち



思春期の子どもたちは、いろいろな悩みを抱えています。

私は自分のクラスの子どもだけではなく、隣のクラスや他学年の子からも悩みの相談を受けることがよくあります。

そうなると面倒に思う教師の方もいるかもしれませんが、私は基本的にどんな子の相談にも乗っています。

それは教師にとって、とても大きな学びになるからです。

ただ、「子どもの相談に乗る」というのは、さほど簡単なことではありません。

教師だからこそ、十分に気をつけなければならないことがあるのです。

若い教師のあなたは、それはどんなことだと思いますか?



母親から「死ね」と言われた女の子




「あの……中野先生……」

放課後、誰もいない教室で明日の授業の準備をしていたとき、かすかな声がして、教室の扉が少し開きました。

「あら、サキさん。どうしたの?」

サキさんは、隣のクラスの女の子。

部活動の部長をやるくらいしっかりした子ですが、大きな悩みを抱えています。

2日前も私のところに来たので話を聞きました。

今日は目に涙をためています。

(なんかあったな……)

「また、お母さんと何かあったかい?」

「……はい……先生、忙しいですか?」

「いや、大丈夫。いいよ、入って。こっちでお話しようか」

「……はい」



「昨日の夜、『バカヤロウ、死ね!』って言われました」

「え!? なんでそんなことになったの?」

「私、昨日テスト勉強してて……夜遅くにお母さんが酔って帰ってきて……『サキ、ちょっと聞いてよ!』って、大きな声で職場のグチを言い始めたんです」

「そうか……で?」

「勉強したいから『もういいでしょ』って言ったら、『なんで親の話が聞けないの!』ってすごく怒って、それで……」

「そうだったんだ。それは大変だったね。つらかったでしょ」

「もう、ホントに……家を出たいです」



教師として何をすべきなのか




サキさんは母子家庭の一人っ子で、お母さんとのトラブルが絶えません。

お母さんは上品な雰囲気の、笑顔の素敵な人ですが、サキさんによれば、家に帰ると人が変わったように大声で毒を吐くようなのです。

家では親子のケンカが絶えず、食器を投げたり、殴り合いになったりしたことまであるようです。


「最近、仕事がうまくいっていないのか、暴言を吐かれることが多くなりました」

「もう、ケンカになるのがいやだから祖父母の家(すぐ近くにある)に住みたいと思ってるんですけど……それを言うと『じゃあ二度と戻ってくるな』とか言われます」

「祖父母はお母さんに注意してくれるけど……そうなるとまたひどいケンカになって……」


サキさんはこのように、私に訴えてくるのです。

何かひとつ言うたびに、長い沈黙があります。

しかし、あえて私は何も言いません。

じっと目を見て聞き、うなずくだけです。

だから、お互いしばらく黙ったままになります。

「……中野先生、どうしていったらいいですか?」

と聞かれたときは、

「そうなんだ。で……、どうするのがいいと思ってる?」

とうながします。

自分の考えは言いません。

自分の考えを言ったところで、それは彼女の考えではない。

私が彼女の話を聞くのは、彼女が他者に話すことで、彼女の考えが整理されるからです。

もし私が何かアドバイスしてしまったら、新たな情報が追加されてしまい、整理されずに混乱してしまいます。

だから私は、子どもから相談されたら、

「アドバイスしない」

ことに徹するのです。



前向きな言葉が出るまで待つ




サキさんは、しばらく話した後、次のように言いました。

「祖父母の家に行きたいけど……そうするとお母さんがひとりになって、もっとひどくなるかも……」

「今はお母さんも仕事つらそうだから……もうちょっとだけ話を聞くようにしようかな……」

「本気のケンカになりそうになったときだけ、祖父母の家に行こうと思います」

言いたいことをたくさんしゃべったせいか、言葉がだんだん前向きになってきました。

「あ、そういえば、なんか前も祖父母の家に行くかどうしようかって、中野先生に話したかも。また同じこと言っちゃってますね。あはは」

ようやく、表情が明るくなってきました。




この段階まで来たら、初めて、私は思ったことを話します。

「うん、でもサキさん、自分が困ってても、お母さんのことも考えてあげられるんだね。そういうとこ、立派だなぁ」

「先生、立派じゃないですよ! 私は中野先生に話を聞いてもらえるからいいけど、お母さんは話聞いてくれる人、私しかいないから……」

「ああ、そうか。そうだよね。お母さん、いい娘をもって幸せだな」

「先生、これからも私の “お父さん” として、またいっぱい話聞いてください。お願いします!」



子どもが相談に来る理由を、子どもの立場で考える




教師は基本、親切な人が多いです。

子どもが悩んで相談に来たら、何とかしてあげたいから、いろいろ子どもにアドバイスします。

こうしたらいい、ああすればいい、というように。

それは教師としての親切心から来ることで、決して悪いことではありません。

しかし、子どもがあえて教師に相談に来る理由は、

「話を聞いてもらいたい」からなのです。

教師のアドバイスを聞きたいからではない。

私は教師になってからしばらく、それがわかっていませんでした。

話を聞くよりも、解決策を提示することばかりに気を取られていました。

そうではなく、子どもの話に集中する。

「聞くこと」に徹する。

解決するのは、教師の仕事ではありません。

教師の仕事の本質は、

「子ども自身が解決するまで話を聞く」ことなのです。

私はそれが少しできるようになってから、子どもが相談に来ることが増えました。

サキさんの場合、廊下で話を聞いたことまで含めたら、もう20数回相談に乗っています。

だから本当の父親のように慕ってくれているのだと思います。

悩んで涙ぐんでいた子どもが、自分と話をして明るい表情で帰っていったとき、私は何とも言えない幸せな気分になります。

たしかにそんな感じで何人も相談に乗っていたら時間はかかるし、子どもから本音を引き出すのはけっこう大変なことです。

でも、せっかく教師になったのだから、少しでも子どもの悩みに寄り添いたい。

本当の意味での教師の仕事のやりがいはそこにあると私は思っています。

若い教師のあなたも、そう思いますか?


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