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言葉にならない気持ち日記

この記事は、サンクチュアリ出版から2025年5月2日に発売の書籍『言葉にならない気持ち日記』から一部抜粋して掲載しています。
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スーパーのレジで、自分の列だけ進みが遅い。


 買い物カゴを手に、レジに向かう。そこで始まる、心の中の小さな戦い。
「どの列に並ぶべきか?」
 目を凝らして各レジの状況を観察し、一番早そうな列を選んだつもりだった。ところが、事件は起きる。隣の列がどんどん進んでいくのに対して、自分の列は一向に進まないのである。

 まるで、宇宙の法則が「私の列だけを遅くしよう」と決めたかのようだ。隣の列の人たちはスムーズに進んでいく。そのいっぽう、私の列では、商品のバーコードを読みとれなかったり、ポイントカードが見つからなかったりするのである。

 観察してみると、レジの列の進みは、複雑な変数によって成り立っている。
 レジ係の方の動きの速さ、熟練度。前に並んでいる人の人数と、カゴの数、中に入っている量。商品ごとのバーコード位置のわかりやすさ。列の先で、ふたつのレジに分岐しているか否か。買い物袋が必要か否か。さらに、増えすぎた支払い方法への対応などなどなどなど。そう、レジの前には宇宙が広がっているのだ。

 そんな状況を前にして「どの列が一番早いか」を観察し、当てようとするなど、無理であり、無駄なのである。スムーズに進めばラッキーだし、他の列より遅くても、そんなもの。そんな心境になれるかは、別の話ではあるが。

自分だけお酒を飲めないのに、割り勘になる。

 どうせ割り勘なのはわかっている。同じテーブルではビールやカクテルがするすると消費されている。「同じペースで飲んでやろうか」と思うものの、ノンアル飲料は、そんなにするするとはおなかに入っていかない。それに比べてアルコールはするすると消費されていく。なんなのだろうか、あのするする感は。

 そして、酔いも回ってきたところで、謎に高いワインが注文される。もう、ため息しかない。単価も違うし、飲める量も違う。しかし、どうせ割り勘なのである。

 目の前のウーロン茶を見つめながら、意識が朦朧としていく。こっちはアルコールも飲んでもいないのに。隣で高級ワインの栓が抜ける音がする。「お通し」も「おつまみ」も、結局アルコールありきの注文である。それでも「みんなでたのしもうよ」と言われれば、断ることもできない。会計時に目にする金額は、ウーロン茶1杯分の何十倍にもふくれ上がっている。

 「一緒に飲もう」という誘いの時点で、すでに不平等は始まっている。飲めない理由、飲まない理由は、人それぞれだろう。体質かもしれないし、信条かもしれない。それでも、そんな個人の事情を無視するかのように、飲み会という場では、「平等な経済的負担」という形で重くのしかかってくる。

 平等という安易な解決策が、かえって新たな不平等を生んでいる。言い出せない空気、断れない雰囲気、そして納得できない出費。その悪循環の中で、黙って財布を開くのである。

ふたりで会う予定だったのに、知らない人がいる。

 待ち合わせの場所で、人を待つ。どんな話をしようかな。どこに行こうかな。ワクワクしながら姿を探している時間は、けっこうたのしい。
 あ、見えた。しかし、まだこちらに気づいていない。手を振ってみると、こちらに気づいたようで、手を振り返してくれる。しかし、その隣には見知らぬ人物がいる。
 ふたりで会う約束をしていたのに。ふたりでしか話せないことを話したかったのに。

 その人は、小さくこちらに会釈をする。こちらもなんとなく会釈を返さざるを得ない。
 それはそうと、誰だよ、お前。お前、誰だよ。知人かよ。友達かよ。ふたりだけの時間を返せよ。
 期待に胸をふくらませていた気持ちが、一瞬にしてしぼんでいく。用意していた話題も、行きたかった場所も、すべてが宙ぶらりんになる。「ごめん、友達も来ることになったの。気が合うと思って」という紹介の言葉に、作り笑顔で応えるしかない。心の中では「なんで言ってくれなかったの?」という不満が渦巻いている。

 相手にとっては何気ない判断だったのかもしれない。もしかすると、よかれと思ったのかもしれない。本当に、素敵な新しい出会いになると思って、友達を誘ったのかもしれない。
 しかし、ふたりで会う約束には特別な意味がある。その空気感、その親密さ、その自由さ。それが第三者の存在によって、一気に色あせてしまう。そして、一方的に「裏切られた感」のような感情を背負い込むことになるのである。

書籍公式サイト https://www.sanctuarybooks.jp/book/detail/1572
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