金色の季節に、触れないままー風まかせ文芸部
冬用のコートを出した。
ポケットの奥に、冷たい金属の感触があった。
鍵。
「……何だろう。」
去年も来たコートだから、
去年に関係するものなんだろう。
…けれど、思い出せない。
コートを羽織り、冬空の下を歩く。
ポケットの鍵を指先でなぞりながら、
白い息を吐いた。
曇り空から射した小さな光。
その光を見上げると、輝く金色の眩しさが目の奥で煌めいた。
それは去年の秋。
金色に染まるイチョウ並木の下で、
ハラハラと舞い落ちる葉を眺めていた。
季節の1番美しい時を思わせる。
木の根元に座り、眺めていた。
「……黄金色ってさ。
綺麗なのに、散るときが一番目立つな。
あんた、こういう季節、苦手か?」
そう声をかけられた。
私は首を振った。
「…好きだよ。金色の光が降るようで…
それを眺めるために低いとこに座ってる」
彼はその言葉を聞きながら、
同じ地面の高さに腰を下ろした。
※
その人とは静かな会話なのに、
何故か心地良くて…2人で落ちる葉を眺めていた。
「来年も見に来る?」
「うん、君が来るなら」
その会話が急に頭の中で蘇る。
足早に街路樹に向かう。
冬になってしまった。
イチョウの葉はまだあるだろうか…
白い息を吐きながら、
衣を脱ぎ捨てた木々を見つめた。
「…遅かった…」
忘れていた約束。
去年と同じ場所に座る。
君はこの場所で、今年も
金色の世界を眺めていたんだろうか…
隣にいない気配を感じながら、
去年の思い出と共に
冬の景色を眺める。
ふと目線の先に小箱が、
鈍色に光った。
立ってる時には気付かないような、小さな箱。
その鍵穴を見た時に
微かな期待が生まれる。
ポケットの中の鍵を、
そっと差し込む。
カチリ。
蓋を開けた中には小さなメモ。
“また来年”
いつの間にか、ポケットに
入っていた鍵。
君はいつから、予想していたの?
周囲を見ても、君の姿はどこにもない。
目を閉じれば、あの金色の世界の中で
笑う2人の姿が浮かんだ。
「…また来年」
今度は行くよ。
この思い出を抱きしめて。
ポケットの中で小さな鍵が
やわらかく光った。
お読みいただいて、ありがとうございました。本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。
予定表に書くことのない口約束には、どこか優しいぬくもりを感じます。
小箱の中のメモには連絡先もなく、
ただ “またあなたと同じ時間を過ごしたい” という想いだけが込められていました。
それが、次のぬくもりへとつながっていくように思います。
――優しい秋の思い出です。
