ここだけの話だよ
桜を見送ったばかりだというのに、
気温は25度を超えていた。
子どもに帽子を被せて、
日焼け止めを塗る。
公園に向かうまでの陽射しは
すでにジリジリと暑く、
私の調光メガネは真っ黒に
変わっていた。
「ママ〜お話してぇ」
子どもの手を繋ぎながら、
桃太郎の話をする。
「鬼ヶ島まで、どうやって行く?」
「あのねぇ、船で行くよ。
“どっこいしょ〜どっこいしょ!”」
子どもは手を離し、
景気よく踊りだす。
「ソーラン節を踊りながら、
鬼ヶ島へ向かう。
盛大な盛り上がりだ」
私は笑いながら、
子どもの手を繋ぎ直す。
「鬼ヶ島に着いたら、どうする?」
「あのねぇ、きび団子食べる」
「戦う前の腹ごなしだね。
鬼の前で食べる?」
「食べるよ!ぜ〜んぶ!」
「挑発するね。鬼は食べたくて、
暴れ出すかもしれない」
「1個あげる」
「お、優しいね。
それは鬼も喜ぶよ」
藤棚の前を通り過ぎる。
桜の次は藤か、と季節の続きを
見つける。
「それで、鬼はどうする?」
きび団子をあげたことで、
鬼と仲良くするルートなんかも
思い描く。
「倒すよ!」
子どもの迷いのない言葉に、
仲良しルートが消える。
「何で倒す?鬼は金棒持ってるよ」
「かなぼうって何?」
「大きくて、トゲトゲのついた金の棒。
振り回してくるよ」
「あのねぇ、剣!
剣で戦う!」
「そうか、剣ね。
ちょっと細い剣だと心許ないけど
大丈夫」
「桃太郎は一人じゃないから。
犬、猿、キジがいる」
「犬が噛みつき、
猿が引っ掻き、
キジが突付く。
ここに剣があれば、鬼も倒れるよ」
「仲間がいれば大丈夫」
子どもには仲間の大切さを
説いてみた。
「倒せる?」
「うん、倒せる」
「やった〜!
倒したらぁ、宝を持ってぇ、
おじいさん、おばあさんにあげてぇ」
「めでたし、めでたしよ」
子どもは満足そうに話を終える。
「うん。めでたし、めでたし」
公園が見えてくる。
繋いだ手が再び、するりと抜けていき、
子どもは走り出していく。
その小さな背中を、
少しだけ長く見つめる。
「ここだけの話だよ」
「ぜったい親も加勢に行くからね」
お話の中には出てこない最強の助っ人は、
いつも子どもの側にいる。
お読みいただいて、ありがとうございました。本作ははらとけいさんの企画に参加しております。
あとがき
子どもと話した桃太郎は、
賑やかで楽しいものでした。
昔話を親の目線で聞くと、少しだけハラハラしてしまいます。
「1人では行かせないよ!?」なんて、
つい思ってしまうのは、
ここだけの話です。
