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二人で馬鹿をやった日ー風まかせ文芸部

君の瞳の中に俺が映った──その瞬間、頬に鋭い痛みが走った。

周囲が振り返るほど、切れのいい音だった。

美和「言ったわよね!? 
私、浮気は許せないし、嫉妬深いタイプだって!」 

——バレた。

まずその一言が頭に浮かんだ。

美和「それに、あんたも言ったわよね。
“俺も同じタイプだ”って!
ならどういうつもりか説明しなさいよっ」

美和は水をグイッと飲む。

氷がカランと小さく鳴り、
そのまま席にドサッと腰を下ろした。

俺も頬を押さえながら、
小さく腰を下ろす。

これから始まる時間が
地獄だと覚悟した。

俺は浮気をした。
どれだけ取り繕っても、無駄だ。

美和を怒らせ、傷付けた。

それでも理由を聞きたいのは、
彼女なりに“納得できる何か”があるなら聞かせろということだろう。

……なら、もう素直に話すしかない。

俺「……同窓会でさ。
久しぶりに小学校のクラスメイトと会ったんだ。
好きだった子で、話してみたら昔と変わらない柔らかさでさ……。

大人になっても同じように接してくれて……なんか、受け入れてくれたから……」

言葉にしてみたら、あまりにチープで、ありきたりで、くだらない理由だった。

俺自身が驚いたくらいだ。

当然、美和は呆れた顔で見ている。

「……自分がこんなに意思の弱い男だなんて思わなかった……」

その時は特別な時間のように感じて、これは“あるべき流れ”なんだとさえ思っていた。

美和「……で? 
その女とはどうなったのよ」

鋭い視線で聞いてくる。

「一度きりで終わった……」

熱は一晩で冷め、連絡も取っていない。

今は美和のことを大切に思っているのに、あの時は完全に浮かされて溺れていた。

俺「……美和。本当にごめん。
俺が馬鹿すぎた……」

深く頭を下げる。

許してもらえなくても、傷つけたことだけは詫びたい。

静かな沈黙。

美和は腕を組み、じっと俺を見ていた。

「……許してもいいよ」

俺は驚いて顔を上げた。

裏切りなんて絶対に許さないタイプだと思っていたから。

「……私のことも、許してくれるなら……」

その言葉の意味を飲み込むまで、時間が要った。

俺「……それは……えっと……」

美和は俯き、視線をそらす。

「……先月の同窓会で……」

俺「……お前も……?」

美和は小さく頷いた。

「あなたの話、聞いてたら“馬鹿じゃん!”って思った。
だけど……あなたと全く一緒だったのよ」

俯きながら、自分を責めるように言う。

「何か特別な時間に思えちゃって……。
“今だけは、あの夢の続きが見られるかも”って……」

美和はゆっくり言葉を噛みしめるように続けた。

「でも目が覚めたら、夢の続きなんてなくて……
むしろ最初から夢なんて、
見てなかったみたいで……」

俺はその感覚に強く頷いた。

俺「……そうなんだよ。
夢なんて見てなかったのに、“続き”を求めてたみたいでさ」

美和「あなたの話、聞いてて“馬鹿じゃん!”とは思った。
……でも、同じことした私も結局、馬鹿だったのよ」

2人の間に、さっきとはまるで違う静かな空気が流れる。

俺「……馬鹿だな、俺たち」

美和「でも……あなたが許してくれるなら……
あれも少しだけ、良い夢だった気がする」

その言葉に、俺は胸に手を当てた。 

俺「……そうかもしれない」

美和「……何でよ」

ムッとして睨んでくる美和に、
俺は困ったように笑う。

その顔につられて、美和も笑った。

お互いの瞳には、
またこれからを歩むパートナーが映っていた。


お読みいただいて、ありがとうございました。本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。


あとがき

昔の自分なら、きっと許せなかったこと。

でも年齢を重ねると、不思議と“理解の余白”が増えていきます。

その余白が、二人の関係をほどくのではなく深めるものなら、
こんな馬鹿な“ハレとケの日”があってもいいのかもしれません。

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