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酸性雨のジューンブライド

「俺達、結婚しない!?」

付き合って一年の彼氏がそう言った。

悪くないタイミングだと思う。

だけど、何だろう。

響かないな。

これからの人生を共にする大イベントを「結婚しない?」と打診されるのもな。

私はサラダプリッツを咥えながら、窓の外を見る。

遠くで稲光が見える。
夕立になりそうだ。

「…知ってる?酸性雨の濃度が高くなって、長くあたるとハゲになりやすいんだって」

彼氏はおでこに手を当てる。以前から前髪の生え際を気にしている。

「…それはヤバいな」

その様子を見て、ふと思いついた。

「ところでさ、指輪は?」

「え、いやまだ…まず聞いてみようと思ったから」

だろうなと思った。

こいつはギャンブルができない。

答えを貰ってYESなら、初めて断られることのない指輪を買うのだ。

「…つまんないな」

「指輪を買う前に返事を聞くんじゃなくてさ」

「断られてもいいくらいの覚悟で来てほしいんだよ」

湿った風が吹き、雨がぱらついてきた。

「指輪買って、雨の中に立ってさ、そこから大声でプロポーズしてよ」

彼氏はきょとんとした顔をしている。

「なんで?」

その当たり前を前提とした結婚生活が嫌だからだ。

「やんないなら、結婚はしないよ」

私は窓の縁に寄りかかり、徐々に強くなる雨を見つめた。

ありきたりの人生は、あまりにつまらない。

彼氏は黙っていた。

一瞬顔を上げたが、そっとおでこに手を当てている。

そして立ち上がると、傘を持って走り出した。

雨は本降りになって、地面が水音を激しく立て始める。

私はスマホで雨雲レーダーを見ていた。

「茜〜っ!!!」

外からの声に、窓から覗く。

息をきらし、手にはなぜかリングピロー、その上にリングを乗せた彼氏が傘を差して立っている。

「いいか〜!いくぞぉ!」

大きく息を吸い、傘を手放す。彼氏のおでこに雨粒が跳ねた。

「俺と結婚してくれ〜!」

「将来ハゲても、ヅラにするから〜っ!!」

私はプリッツを吹き出して笑った。

窓を開ける。

「いいよ〜っ!」

「私がデブったら、ライザップ行くから〜っ!!」

ビショ濡れのプロポーズ。

人生はこうでなくちゃ。


その後、風呂に入ってドライヤーをかける。

彼氏の気にする頭に温風を当てる。

「わ!ふっかふか!」

「えっ、ホントに!?」

酸性雨を浴びた後の髪はなぜか、ふかふかで手触りが良かった。

「なんかさ、ハゲになっても愛せそう」

「俺もデブになっても愛せそう」

結婚式は、酸性雨のジューンブライドでもいいかもしれない。


お読みいただいて、ありがとうございました。
本作は、はらとけいさんの企画に参加しております。



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