20XX年の曲が問う「君は?」 Helsinki Lambda Club/ Eleven plus two/Twelve plus one レビュー
自分の中でHelsinki Lambda Clubブームが到来して半年ぐらい経つ。こないだ新宿のディスクユニオンに行った時に1,500円で売ってた「Eleven plus two/Twelve plus one」のCDも買った。初回限定生産仕様なので、レコードサイズのバカデカいジャケット付き。
なのでレビューします。書いたところで1,500円の元は取れないけど、良いアルバムなので。

未来を見てきた橋本薫

2013年夏に結成され、2014年にUK.PROJECTからデビューしたHelsinki Lambda Club(以下ヘルシンキ)。「Eleven plus two/Twelve plus one」は、2020年11月にリリースされた2ndアルバムだ。ちなみにこのタイトルはアナグラムになっていて、全部同じ種類と数のアルファベットで構成されている。
本作は前半で「過去・現在」、後半で「未来」をテーマにした2部構成の作品になっていて、前者はギターボーカルの橋本薫が制作期間中に30歳を迎え、若い時にしか鳴らせない音や熱量に意識が向いたことによって生まれた構想。結成当時の手法を再現しながら制作されたらしく、現在もライブでキラーチューンになっている楽曲がアルバム前半には多数収録されている。
そして厄介なのがアルバム後半。「橋本が見てきた未来のヘルシンキがやっていた曲」をテーマに、数年後や数十年後に自分が演奏する曲を先取りするというコンセプトなのだが、他のメンバーはこの世界観を理解するのに時間がかかったようだ。理由は下の写真を見ればわかるだろう。

こちらCDに付属していた未来のHelsinki Lambda Clubの年表。ツッコみたい部分は山ほどあるが、2026年時点でスタジアムバンドにはなってないし、去年観たヘルシンキのライブに橋本がガッツリ参加してたことを指摘するのは野暮だろうか。個人的には第一子に「虎丸」と名付けるセンスが好きだ。ベースの稲葉航大が作曲した「Sabai」も、橋本がバンドを脱退した後に制作された曲(というコンセプト)だと思うと、どこか切ない。切ないよね?
そんなわけで、以前より様々な音楽性を取り込んでいたヘルシンキの中でも、独自の世界観が構築され、今までとはまた違ったベクトルの実験性があるアルバムとなっている。
また、新型コロナウイルスが流行していた最中のリリースだったこともあり、直接的に社会への批判を歌うことは一部を除いてなかったものの、橋本は「偶然とか必然っていうものがコロナによってはっきりしたなと感じた」と当時のインタヴューで語っていたし、彼らなりに不安定な世界へと牙を向けた部分もあるのかなと思う。
青い衝動と荒廃した未来の二部構成

まずは前半の「過去・現在盤」。1曲目の「ミツビシ・マキアート」から最高。ガレージパンクの要素を主軸に、Weezerの「Surf Wax America」なんかもリファレンスした、疾走感があるけどナードっぽさもある、筆者含めた日陰者を一撃で虜にする楽曲だ。歌詞もVampire Weekendに夢中の好きな女の子(このシチュエーションもナードすぎる)を前に、悔しさを感じながら「俺を君にそんな顔させたい!」と燃える不器用な男の心情をぶち撒けたような内容。
謎の奇声から始まる「Debora」は、全体的に小気味の良いニューウェイブサウンドの曲だが、ラストで唐突にヘヴィメタルのようなパートを入れてくるのがヘルシンキならでは。3曲目「それってオーガズム?」は2分足らずの短いナンバーで、インディーポップサウンドと「ひらりひらりひらひらりと ぬらりぬらりぬらぬらりと」のフレーズが耳に残る。
4曲目「Good News Is Bad News」は、2000年代のインディーロックを彷彿とさせるシンプルなギターサウンドで、全編でバンドのグルーヴ感を体感できる名曲。ライブで聴いた時もめちゃくちゃ息の合った演奏だなと思った。続く「パーフェクトムーン」は物悲しい雰囲気のバラード曲。「欠けた形が僕らのパーフェクトムーン」というフレーズから橋本の巧みなワードセンスが炸裂している。
6曲目「Shrimp Salad Sandwich」は、明るい曲調のガレージロックサウンドながら、歌詞は当時の日本情勢への批判を落とし込んだ皮肉めいた内容で驚かされる。桜を見ようの下りとかかなりストレートな政治批判で面白い。
立食パーティーをやらなくちゃ
何がなんだってやらなくちゃ
和牛のステーキを用意してね
電車は危ないから帰りはハイヤーで
領収書切って
立食パーティーは楽しい
いつだって何より楽しい
話し足りないねとハグを交わし
それならそうだ来週は桜を見よう
新宿御苑で
トライバルなビートのインスト曲「Mind The Gap」を挟み、8曲目以降は後半の「未来盤」。「午時葵」は、80年代のスタジアムロックみたいなダンサブルなビートと壮大なキーボードの音が印象的なサウンドだが、歌詞はどこか内省的で重たい雰囲気なのがヘルシンキらしいひねくれ方で良い。続く「IKEA」は、前半こそキャッチーなメロディと「極彩色の甘過ぎるケーキを食べて甘過ぎるねって言いたいね」のフレーズを反復するポップなサウンドだが、後半はゆったりした緊張感のあるビートにラップを乗せたパートに突入する今作屈指の実験的な楽曲だ。
10曲目の「Sabai」は前述した通りベーシストの稲葉が作曲。開放的なサウンドと「どうせ死ぬなら楽しもう」という明るいのか暗いのかよくわかんない歌詞が特徴的で、ボーカルのキーがめちゃくちゃ低いのもベーシストならでは(?) 。「眠ったふりして」 は、橋本がヘルシンキより前に組んでいたバンドの楽曲を、ギタリストの熊谷太起によってリアレンジしたもの。エモーショナルでどこかノスタルジーなゆったりしたメロディと、橋本が「ヘルシンキの中でも特に文学的」と語る歌詞が秀逸な名曲。
「Happy Blue Monday」は、エレクトロ要素強めだが、歌謡曲のようなアプローチも取り入れたヘルシンキ流マッドチェスターなサイケでハウス色強めのダンスナンバー。そしてラスト「you are my gravity」は、どこか無機質なシーケンスのサウンドを主軸にしたナンバー。橋本が本作のコンセプトを思いついたのもこの曲を制作している際に未来の荒廃した風景が見えたからだと言っているので、実はそれなりにアルバムのキーとなる曲だ。ちなみに上に貼った年表には記載されていないが、この曲がリリースされる20XX年は、橋本以外のメンバーが技術の進歩によって肉体を失い、脳だけになっているらしい。なんのこっちゃ。個人的には「君は?」と問いかけるフレーズが好き。荒廃した世界で唯一肉体を持っている橋本の問いかけなのだから、そりゃ心に沁みる。
色んなことが起きてく
軌道を変えて生きてく
信じられないとしても
君は?
ということで、曲毎の情報量が破茶滅茶に多いが、メロディセンスと独特ながらも確かに心を揺り動かされる歌詞によってどの曲もちゃんと自分たちの曲に落とし込める技術力の高さがあるし、だからこそどんな実験的なことにも挑戦できるのがヘルシンキの強みであり、その強みを存分に活かしてるのが本作だ、と俺は思う。だからこんなメチャクチャなコンセプトでもスベっている曲は全くないし、50分間で13通りの聴かせ方ができるヘルシンキの実力には感服だ。恐ろしい。
そんなヘルシンキだが、今年からUKPを離れてセルフマネジメント体制で活動している。1月にリリースされた新曲「止められないっ!」もなかなか良い曲なので、新体制で作られる新作のリリースも期待したいし、今年もまたライブが観たい。去年は屋外とZeppで観たけど、両方とも違うエネルギーを感じる凄まじいアクトだったので、今年はもっと小さいキャパの会場とかでも観てみたいなと思う。本当に彼らはライブもスゴい。もっと数多の人に届け、ヘルシンキのスゴさ。
それでは。
