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なぜ、ゴルフ場の「グリーンキーパー」は評価されないのか。

ゴルフ場で働くようになって、僕の中で最も大きく変わった価値観がいくつかあります。 その最たるものが、「グリーンキーパー」という仕事に対する認識です。

正直に言えば、この世界に入る前の僕は、彼らの仕事をほとんど理解していませんでした。 「コースの芝生を綺麗に刈る人」 なんとなく、そんな牧歌的なイメージを抱いていたのです。

しかし、現場に身を置き、その裏側を知った今、僕の認識は180度覆りました。 ゴルフ場という「商品」の価値を最も大きく左右し、支えているのは、間違いなくグリーンキーパーである。 にもかかわらず、日本における彼らの社会的・経済的評価は、お世辞にも高いとは言えません。なり手不足も深刻です。

この歪みは、一体どこから生まれているのでしょうか。

芝を刈るだけの仕事ではない

そもそも、グリーンキーパー率いる「コース管理」とは何を組織しているのか。 一般的なゴルフ場の敷地面積は、おおよそ100ヘクタール前後。東京ドーム20個分以上という広大な自然が彼らの舞台です。

その中にある芝生の状態を見極めるのはもちろん、点在する樹木、バンカーの砂の量、カート道路の舗装、全体の景観に至るまで、プレーヤーが快適に過ごせる環境のすべてをコントロールし続けるのが彼らの任務です。

言葉にするのは簡単ですが、その実態は驚くほどロジカルで、科学的です。 気温や降水量のデータを読み解き、数週間先の芝の状態を予測する。 肥料をミリグラム単位でコントロールする。 病害を未然に防ぐために、化学の知識を総動員して殺菌剤を的確に散布する。 重機や大型機械を自ら整備・操作する。 さらには、限られた予算の管理、職人集団のマネジメントまでをこなす。

これは単なる「作業」ではありません。 アグリカルチャー(農業)であり、エンジニアリング(土木)であり、サイエンス(化学)であり、そして何よりマネジメント(経営)そのものです。

日米で分かれる、評価の格差

ゴルフの本場アメリカでは、彼らは高度な専門職として強固な地位を確立しています。 現地では「スーパーインテンデント(Superintendent=最高管理者)」と呼ばれ、全米ゴルフコース管理者協会(GCSAA)のデータによると、その平均年収は約12万ドル(約1,800万円)に達します。(最高じゃなくて平均ですよ・・・)経営陣と同等の、あるいはそれ以上の敬意を払われる存在なのです。

では、なぜ日本ではこれほどまでに過小評価されてしまうのか。 自分なりに潜ってみて、一つの答えに辿り着きました。

それは、日本人の多くが「芝生を『管理』するという狂気的な難しさを、実体験として知らない」ということです。

日本の住宅事情において、庭一面に美しい芝生がある家はごく稀です。僕たちは日常において、芝生を「育てる側」になる機会が圧倒的に少ない。 実際に小さな庭でさえ、芝生を扱ってみると絶望するほど手がかかります。定期的な刈り込み、絶妙な水やり、雑草との戦い、病気への対策……。少し目を離すだけで、芝は目に見えて荒れていきます。

ましてやゴルフ場は、毎日大勢のプレーヤーがスパイクで踏みつけ、重いカートが走り回る「スポーツターフ(競技用芝生)」です。真夏の酷暑、台風、長雨。自然の猛威に晒されながら、常にボールが美しく転がるコンディションを維持し続ける。 その難易度は、家庭の芝生の比ではありません。

「知らない」という、最大のボトルネック

しかし、その難しさは「見えない」のです。 美しく仕上がったグリーンを見ても、僕たちは「今日も綺麗だな」と思うだけで、その裏にある血の滲むような思考やメンテナンスのプロセスには想像が及びません。

「経験したことがないから、その価値が伝わらない」

これは、ゴルファーだけの問題ではありません。ゴルフ場の経営陣や支配人でさえ、コース管理の現場を自ら泥にまみれて経験した人でなければ、その本質的な難易度と重要性を本当の意味で理解できていないケースが多々あります。

以前、別の記事で「百行は一果に如かず(行動して結果を出すことの大切さ)」という話を、自戒を込めて書きました。 けれど、その前段階にある「見る(一見)」や「考える(一考)」が抜け落ちた組織では、現場の努力という「果実」は正当に評価されません。

幸いなことに、現代はSNSやYouTubeを通じて、現場のリアルを直接届けられる時代になりました。 ゴルフ場というビジネスにおいて、最大の商品価値は「芝生」です。そして、その商品を命がけでつくっているのは「人」に他なりません。

南国のゴルフ場で働き始めて4年目。 支配人じゃないほうの僕だからこそ、この最高にかっこいい職人たちの価値を、もっと多くの人に知ってほしいと願っています。

次にゴルフ場へ足を運んだときは、ぜひ、足元の芝生を少しだけ見つめてみてください。 そこには、僕たちの想像を遥かに超える、誰かの知識と経験と、執念が詰まっているはずですから。

"There are no shortcuts on the quest for perfection." — Ben Hogan

「完璧を追い求める旅において、近道など存在しない。」 — ベン・ホーガン


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