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#41 鹿児島・阿久根「大石酒造」に息づく伝統と技術の精神

 大石酒造がつくる新焼酎である「白濁無濾過・鶴見」を初めて飲んだ時、瓶を開けた瞬間にブワッと広がるガス香に度肝を抜かれた。

 商品の案内文には「初めて芋焼酎を飲まれる方には不向きかと存じます。」なんて書いてあるけど、その香りのインパクトと同時に、お湯わりで飲んだときの、甘みと旨みがじんわりと広がる味わいにハマった。
 
それはまさしく唯一無二と言っても過言ではないほど独特な芋焼酎で、僕にとっては新焼酎の季節の楽しみになった。 


 また代表銘柄の「鶴見」や「莫祢氏」に加えて、じゃがいもを使った焼酎「MOTO」や地元の果物を使ったリキュールである「MOJOKA」シリーズなどもつくる。伝統的な酒づくりを行いながらも、実験的な新しい酒づくりに取り組まれている様が印象的だった。

 調べてみると大石酒造の五代目・大石啓元さんは、元々はエンジニアのご出身で、大石酒造の象徴でもある古式かぶと釜蒸留器を様々な文献を研究し、再現したという。また啓元さんの次女である晶子さんと、夫である六代目・恭介さんは元々は、デンマーク・コペンハーゲンで約10年間、それぞれ研究職について、蔵に戻ってきたという異色のキャリア。

 焼酎の味わいはもちろんのこと、蔵の方々のご経歴や背景にも強い興味があり、焼酎づくりで多忙を極めるタイミングにも関わらず、無理を言って訪問のお願いをさせていただいた。


 大石酒造のある鹿児島・阿久根を訪れるのは初めてだったので、せっかくであればこの土地を知るためにも、ゆっくり過ごしたいと思い、前日から阿久根に泊まることにした。

 宿泊する宿の方に阿久根のおすすめを聞くと、「温泉」と「魚」だという。どうやら阿久根には温泉宿や立ち寄り湯がいくつもあり、今も昔ながらの温泉が楽しめる。また海に面した港町ということもあり、イワシやキビナゴなど新鮮な魚が手に入るという。

 大石酒造への訪問は、約1週間の研修の最後の目的地。これまでの移動を一人で延々と運転していたこともあり、多少の疲労もあったので、じっくりと温泉に浸かって身体を休めることにした。

 おじゃました「ふれあい温泉ぼんたん湯」は、素朴ながら掛け流しの贅沢な温泉で、お湯は海が近いからか、塩分を含んでいて非常に塩っぱい。だけど10月後半の肌寒い夜にも関わらず、風呂上がりにはずっとポカポカしていた。

 温泉を出て、その足で教えてもらった「もる」という居酒屋に向かう。店主の方が優しく声をかけてくださって話をしていると、居酒屋を始める前は大手の酒販店で働かれていて、僕が酒屋を開業すること、そして焼酎が好きで翌日に大石酒造に伺うことを伝えると話が大いに盛り上がった。

 そして「鶴見・白濁無濾過」をお湯割りで頂きつつ、刺身やイワシをいただいたが、これがもう最高の一言。阿久根の魚をつまみにして、阿久根の酒をいただく。これ以上の幸せがあるだろうか。そうして良い気分で翌日の訪問を楽しみに、宿に戻った。


 翌朝、大石酒造に向かい、六代目・恭介さんにご挨拶させていただくと、早速蔵の中をご案内いただいた。

 大石酒造は、明治32年(1899年)に創業した歴史のある焼酎蔵。訪れた10月は焼酎の仕込みで最も忙しい時期で、ご家族や従業員の方々を合わせて約10名が働かれているという。この日も芋切りや仕込みなど、蔵のあちこちで忙しそうに役割分担をしながら働かれていた。

 大石酒造では、芋焼酎をつくる蔵としては珍しく原料となる芋に黄金千貫を使っておらず、代表銘柄である「鶴見」も「莫祢氏(あくねし)」も、シロユタカという品種を主原料として使っている。

 黄金千貫を使わない芋焼酎の蔵をあまり聞いたことがなかったので、その理由を聞いてみると、この阿久根には昔からデンプン工場が多数あり、シロユタカはそのデンプンの原料として使われる品種。よって阿久根の芋農家は黄金千貫ではなく、シロユタカを主に栽培していたこともあって、大石酒造もシロユタカを焼酎の主な原料としているという。

 「芋焼酎」と一言で言っても、このように地域の産業や農業と密接に関係していて、品種も異なるその土着性はとても面白いと思う。

 大石酒造といえば、「古式かぶと釜蒸留」を思い浮かべる人も多いと思う。

 「古式かぶと釜蒸留」は明治時代ごろまで行われていた蒸留方法で、現在でも東南アジアの一部の地域では残っているようだ。恭介さん曰く、同じもろみを使っても通常の蒸留器とはまるで味わいが変わるという。

 通常の蒸留は「直接蒸留」と呼ばれ、もろみに水蒸気が当たる一方、かぶと釜蒸留は「間接加熱」と言い、もろみには水蒸気が当たらないため、ゆっくり、じっくり蒸留される。また古式かぶと釜蒸留には、冷却装置がないため、一度蒸留された蒸気が再びもろみに戻ることで、酒質も変化する。

 そして、蒸留器自体が木樽のため、独特の香りや渋みが出る。通常の蒸留に比べると時間もかかるわりに、得られる酒量も少ないが、じっくりと蒸留された贅沢な蒸留方法が「古式かぶと釜蒸留」だ。

通常の蒸留器
古式かぶと釜蒸留器
出典:大石酒造のnoteより

 大石酒造では「古式かぶと釜蒸留」の独自開発だけでなく、焼酎の世界では珍しい黄麹を使った酒づくりや地元の素材を使ったリキュールづくりも行なっている。そして、これからは地元のサトウキビを使ったラムや柑橘を使ったジンにも挑戦するという。

 恭介さんのお話を聞いていると、阿久根の素材を使い、伝統的な酒づくりを行いながらも、形にとらわれない新しい可能性を模索していくその実験的な姿勢こそが、大石酒造の本質なのだと感じる。

 蔵と焼酎づくりを一通りご案内いただき、事務所に戻ると晶子さんにもご挨拶をさせていただき、一緒にお話を伺うことができた。

 恭介さんと晶子さんのお二人に聞きたかったこと。それは「なぜ研究者の道から、焼酎の道を選んだのか?」ということ。デンマーク・コペンハーゲンで約10年、研究者としてのキャリアを築きながら、鹿児島・阿久根に戻り焼酎づくりの道を選んだその理由が知りたかった。 

 お二人曰く、コペンハーゲンでの生活は、とても暮らしやすく、気に入っていたものの、日本にはどこかのタイミングで帰りたいと思っていたそうだ。日本での研究者として生き方を模索しつつも、しかし恭介さん自身は、後継者が不在だった大石酒造の未来をどうするのか気にされていたという。

大石酒造のシンボルでもある煙突も昔はもっと長かった。

 それは、120年以上の歴史のある焼酎蔵である大石酒造を無くすのは惜しいということ。そして阿久根には、海も山もあり、子育てにも良く、家族もいる。何より自分たちがとても好きな場所。
 大石酒造の将来、そして自分たち家族の将来も考えた上で、ふたりは蔵に戻ることを決意したという。

 言葉にすると、簡単に聞こえてしまうかもしれないが、研究者から焼酎づくりと、まるで異なる業界への転身。アカデミアとの文化の大きな違いもあったと思うが、恭介さん・晶子さんは「焼酎業界の皆さんが優しく受け入れてくれた」と口を揃えて言う。

 色々なお酒の生産者の方々をおじゃましてきたつもりだが、大石酒造に流れる空気感はちょっと他の蔵とちがう。なんというか、恭介さんと晶子さんの柔らかな雰囲気が漂っていて、心地よい。焼酎づくりで体力的にも精神的にも厳しい時期にも関わらず、極端に張り詰めることなく、オープン。

 それは結果として酒づくりにも現れるのだと思う。この地元・阿久根で伝統的な焼酎づくりに励みつつ、新しい考え方を取り入れながら、柔軟に酒づくりに取り組む様は、大石酒造の歴代の当時の方々、そして恭介さん、晶子さんのお人柄がそのまま現れているのだろう。

 恭介さん、晶子さん、大石酒造の皆様、焼酎づくりの最もお忙しい時期にも関わらずゆっくりとご案内をいただき、さらにはお昼ごはんまでご馳走いただきまして、本当にありがとうございました。

大石酒造
住所:鹿児島県阿久根市波留1676番地(Google Maps
Web: https://www.oishishuzo.co.jp/
Instagram: https://www.instagram.com/oishishuzodistillery/


酒屋・ボトルショップ salo kamakura(サロ カマクラ)
Owner & Director
青山 弘幸
住所:神奈川県鎌倉市小町2-8-9 秋山ビル2階3号室(Google Maps
Web: https://www.salo-kamakura.com/
Instagram : https://www.instagram.com/salo_kamakura

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