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私の宝物

私の宝物は人形作品だと思われるかもしれない。
人生をかけて人形を作っているのだから、そう思われても当然だろう。

しかし、意外と私は凡庸である。
私の宝物は、息子だ。
半ば冗談で、人に紹介するときに「私の最高傑作です。」と言うこともある。

もちろん、人形作家として自分の作品は大切にしている。何ヶ月もかけて作ったものもあるし、完成した時の喜びは何度経験しても特別なものだ。毎回、作品が完成する瞬間は新鮮な気持ちになり、嬉しく思う。
それでも、なぜ息子を最高傑作と呼ぶのか。理由は単純で、二度と同じものを作ることができないからだ。

当たり前のことだが、人形作品も、全く同じものを作ることはできない。
型を使って複製したとしても、仕上げで整え、メイクを施し、同じウィッグ、同じ目、同じデザインの服を着せたとしても、それは「同じ形をした別のもの」だ。少しずつ生じる違い。 そのブレこそが、人形の個体差や個性になる。

しかし、人間はもっと不思議だ。
もともと私は、自分と同じような苦労や、社会で生きていく辛さを子どもに背負わせてしまう可能性があるなら、子どもはいらないのではないかと思っていた。それでも、様々な事情が複雑に重なった結果、私には一人の息子がいる。
至極当たり前のことだが、子どもは選べない。
男の子なのか、女の子なのか。 どんな顔をしているのか。 どんな性格なのか。 どんな声なのか。

人形なら、ある程度は自分の想像したものを形にできる。しかし、子どもは違う。人生で一番大きな、不確定な存在なのかもしれない。思い通りにならないから、持たないという選択をする気持ちは大いに理解できる。


初めて息子と対面した時のことを、今でも覚えている。産声を上げた小さな息子は、なぜか私の顔を見るとじっと黙った。一般的に赤ちゃんは視力がまだ弱いと聞いていたので、見えているのか見えていないのかは分からない。それでも、なんだか泣き止むのが早すぎるような気がした。
何を考えているのか分からず、私は出産で疲れ果てヨレヨレで、顔色も悪かった自分の姿が怖かったのかなと少し気まずくなり、
「……はじめまして」
とぎこちなく挨拶をした。
小さくて、私が手をかけなければ生きていけない存在。その責任は嬉しさだけではなく、プレッシャーも大きかった。新生児の頃は、獣のようになりふり構わず見張っていた。「子連れの熊には手を出すな」という言葉があるが、あれは母熊が危険であるという話だけではなく、守るものができた生き物の本能の話なのだと少し分かった気がする。

あっという間に新生児期を過ぎ、まだ言葉を話せない乳児の頃は、何を考えているのかも分からなかった。色々なものを見せ、表情や仕草から、何が好きなのか、何を伝えたいのかを探した。

そして言葉を話せるようになると、息子は急速に「小さい生き物」から「小さい人間」になっていった。私や主人に似ているところもある。主人の几帳面さや私のようなこだわりの強さがある。けれど、完全に別の人間でもある。
日々の行動は面白く、予想外で、時々驚かされる。心配になることもある。私の真似をしているのか、描いた絵を見せにくる姿は今でも愛おしい。

人形は、技術的な部分を除けば、自分の思い描いた方向へ近づけることができる。人間はそうではない。
思い通りにならないから、人間より人形と暮らす方が楽で心地よい。本当に心からそう思っていたはずなのに。
今では、仕事から帰ると、息子が散らかした部屋で文句を言いながら一緒に本を片付けている。そして、「晩御飯何を食べよ」と一緒に考えている。

息子は、強制的に私へ働く理由と原動力をくれた。
息子のおかげで、私は社会の中で責任を持って生きることが少しできるようになった気がする。仕事をしている時も、息子の顔がちらつく。息子の赤ちゃんの頃の写真が入った定期入れを、お守りのように持ち歩いている。

2〜3歳くらい


「2歳、3歳が一番可愛いよ」
と言う人もいる。けれど、私にとって息子は7歳になった今も、「一番可愛い」を更新し続けている。
この更新は、いつまで続くのだろう。他に比較対象がいないから分からない。
いつかは息子離れをしなければならない。子育てにはタイムリミットがある。
「ひとりで生きていけるのだろうか、困ったら帰っておいで。」
そう思いながら多くの親は不安を抱えながら、つないだ手を離してきたのだろう。

人形とは違う。
都合が良い存在でもなく、思い通りにもならない。
これから何が起こるのかも分からない。
明日、とんでもなく不幸になる可能性だってある。
そんな不確かな存在なのに、なぜか一番光って見える。
いわゆる親バカなのかもしれない。
あるいは、人間は人間への愛情という本能には逆らえないということなのかもしれない。
もしかすると、私のメガネがめちゃくちゃ曇っているだけなのかもしれない。
それでもいい。
私の最高傑作。
私の宝物。


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