見出し画像

エッセイ【調和のメロディー ー 受け取ることから始まった変化】

尽くされることには、どうにも慣れない。
照れ臭さが勝ってしまい、「ありがとう」と口にするよりも先に、どこか居心地の悪さを探してしまう。素直になれない自分に苦笑いしながらも、胸の奥では、これまで知らなかった温かな感覚が静かに広がっていた。

職場の仲間が仕掛けてくれた、誕生日のサプライズ。
名前を呼ばれ、拍手に包まれたあの瞬間、視線の置き場に困りながらも、確かに「受け取っている自分」がそこにいた。

「自分が頑張ればいい」
「人に頼るのは苦手だ」

そうやって自分を律し、一人で抱え込むことでしか、価値を証明できないと思っていた。頼ることで迷惑をかけるくらいなら、自分が我慢すればいい。そんな選択を、何度も繰り返してきた。

けれど今の仲間たちは、そんな私の頑なな鎧を、時間をかけてゆっくりと、しかし確かに解きほぐしてくれた。
差し出された手を拒まずに受け取ったとき、自分の中で何かが静かに変わっていくのがわかった。
その小さな変化の積み重ねが、いつの間にか「自分という人間の輪郭」そのものを、少しずつ塗り替えている。

私は今、樹齢数千年を数える杉並木が立ち並ぶ参道を歩いている。

足元の土はやわらかく、踏みしめるたびにかすかな音が返ってくる。
小鳥のさえずり、風に揺れる葉の音、雪解けの匂いを含んだ冷たい空気。
どれ一つとして強く主張するわけではない。けれど確かな存在として重なり合い、この場所にしかない静かな調べを生み出している。

ふと気づく。
一つの音だけでは、この響きは生まれない。

風、木々、雪、土。
それぞれが自分の役割を持ち、互いを消さず、支え合うことで、この空間は成立している。

思えば、私という「個」もまた、完成されている必要などなかったのかもしれない。

足りないところがあるからこそ、誰かが手を差し伸べてくれる。
自分が差し出した何気ない一言や行動が、別の誰かを支えていることもある。

異なる音色が重なり合うことを受け入れたとき、独りで抱え込んでいた頃には見えなかった景色が、確かに広がっていく。

あまのじゃくな私が、照れ臭さの向こう側で受け取ったあの喜び。
それは「弱さを見せること」ではなく、「弱さを活かすこと」へと変わる、小さな始まりだった。

杉並木を吹き抜ける風が、背中をそっと押してくる。

この場所で得た静かな確信を胸に、私はまた歩き出す。
誰かと重なり合いながら、私たちにしか奏でられないメロディーを紡ぐために。

まだ見ぬ誰かの明日が、今日よりほんの少し軽やかに、そして健やかになるように。

#エッセイ部門
#創作大賞2026
#自己成長
#人間関係
#チーム
#調和
#弱さは強さになる
#ひとりじゃない
#咲良龍寿

いいなと思ったら応援しよう!