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記憶の隙間に沈む、3月19日のこと

春の光は、ゆっくりと街を包み込んでいく。3月19日、冬の名残が微かに残る風に吹かれながら、私はふと去年のこの日を思い出す。

机に向かい、目の前の画面には数字と規約、略語が並んでいた。PCI DSS。セキュリティ、リスク管理、コンプライアンス。会議は午前から午後まで続き、いつの間にか陽が傾いていた。それは、時間というものが目の前で音もなく溶けていくような感覚だった。

だが、その日がどんな色をしていたか、空の青さがどれほどだったかは、思い出せない。あるのは、会議の内容と疲労感、コーヒーの苦さだけだ。記憶とは不思議なものだ。情報は鮮明に残っているのに、風の匂いや温度、ちょっとした会話の断片はぼんやりと霞んでいる。

今年の3月19日は、どうだろう。

PCの画面を閉じ、外に出る。春の気配は確実に近づいている。薄手のコートで歩くには少し肌寒いが、陽の光は確かに柔らかい。去年の自分が会議室の中で過ごしていたことを思うと、少しだけ不思議な感覚になる。あの日の私は、こんな風に外を歩く未来を想像していただろうか。

「去年の3月19日、あなたは何をしていましたか?」

道行く人に問いかけてみたくなる。けれど、たぶんそんなことをしても、みな曖昧な笑みを浮かべて、記憶の中にぼんやり沈んだ答えを探すだけだろう。日々は積み重なりながら、少しずつ違う形をして、いつの間にか私たちの背後に流れていく。

来年の3月19日、私はまた今日を振り返るのだろうか。もしそうなら、せめて「今年はいい1日だった」と思えるようにしたい。何か特別なことがなくても、風の匂いと空の青さくらいは覚えておきたい。

春の足音が近づく。
それだけで、今年の3月19日は去年とは少し違う気がする。

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