第2回:バブルを生んだ「信用革命」
― 1929年の個人投資家ブームと現代のユニコーン経済
スマホで気軽に株式投資ができる現代。
AIブームが市場を牽引し、金利の動向に一喜一憂する一方で、私たちの足元では「信用」の新しい形が次々と登場しています。
レバレッジETF、BNPL(後払いサービス)、スマホ証券……。
これらはすべて、「金融の民主化」という名のもとに拡大した“新しい借金”の形です。
しかし、約100年前の1929年にも、まったく同じ「金融革命」が起きていました。
誰もが投資家になれる時代が到来し、そして――その先に「大恐慌」が待っていたのです。
第1章:「10倍レバレッジ」と現代の信用取引
1920年代のアメリカで“サンシャイン・チャーリー”と呼ばれた男、チャールズ・ミッチェル。
ナショナルシティバンク(現シティバンク)の頭取だった彼は、一般投資家向けに**信用取引(証拠金取引)**を普及させました。
わずか10%の証拠金で株を購入できる――つまり10倍レバレッジ。
100ドルの元手で1,000ドル分の株が買えたのです。
この「金融イノベーション」は、当時としては革命的でした。
個人投資家の数は爆発的に増え、借金による投機が当たり前になっていきます。
現代においても、ロビンフッドのようなスマホアプリや、3倍ブル型ETFといった商品が同じ役割を果たしています。
金融へのアクセスは民主化されましたが、同時に「誰もが借金できる」環境も整ってしまったのです。
技術が参入障壁を下げ、誰もが簡単にレバレッジをかけられる。
それは1929年も2025年も変わらない。
第2章:「月賦投資」と現代のBNPL経済
1929年8月、大暴落のわずか2か月前。
GMの財務担当ジョン・ラスコブが雑誌でこう提案しました。
「月15ドルの積立で、誰でも金持ちになれる」
この“月賦投資”は、自動車ローンの分割払いを株式投資に応用したものでした。
つまり、「借金して株を買う」仕組みの一般化です。
現代版のラスコブ的発想が、BNPL(Buy Now Pay Later)=後払いサービスです。
「今買って、後で払う」この仕組みは便利な一方で、見えない負債を増やします。
特に米国では、信用力の低い層の約40%がBNPLを利用し、若年層の延滞率も上昇傾向にあります。
これらの負債は伝統的な信用スコアには反映されにくく、実際のリスクが見えにくいのです。
「後で払う」という楽観は、いつの時代もバブルを育てる。
第3章:1920年代の「投資信託」と現代の「ユニコーン」
1920年代後半、アメリカでは「会社型投資信託」ブームが起きました。
ファンド同士が互いに投資し合う“入れ子構造”で、レバレッジを何重にも増幅。
その代表格がゴールドマン・サックス・トレーディング・コーポレーションです。
1932年には、わずか3年で設立時の35分の1まで価値が暴落しました。
現代にも同じ構造があります。
巨大ファンドがスタートアップに巨額の資金を注ぎ込み、評価額を膨らませる――ユニコーン経済です。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドによるWeWorkへの投資は象徴的。
2019年には評価額470億ドル→IPO延期で80億ドルへと急落しました。
「評価額の上昇」は、しばしば「実力」ではなく「期待」に支えられている。
第4章:「金融の民主化」という美名の裏側
1920年代も2020年代も、キャッチコピーは同じです。
「誰もが投資家になれる」。
しかし、金融リテラシー(知識)の格差があれば、アクセス拡大は富の再分配ではなく、損失の再分配を生みます。
ゲーム感覚のアプリ、手数料無料のサービス。
一見すると優しい設計の裏で、リスクが個人へと転嫁されています。
「金融の民主化」は、実は「リスクの民主化」でもある。
【1929 vs 2025】信用拡大の構造を比べる
見やすく整理すると、次のような「鏡像関係」が浮かび上がります。
💥 高レバレッジ取引の普及
1920年代:証拠金10倍取引が一般化
2025年:レバレッジETFやFXで誰でも少額から参入可能
💳 分割払い・後払いの拡大
1920年代:月賦投資(分割払いで株を買う)
2025年:BNPL(後払いサービス)で消費を先延ばし
🏢 資金の集中と膨張
1920年代:投資信託の相互投資(ファンド・オブ・ファンズ)
2025年:巨大VCによるユニコーン投資と過剰評価
📱 アクセス革命
1920年代:電話とカウンターで注文
2025年:スマホで1タップ、手数料ゼロ
100年前と今の違いは、テクノロジーの速さだけ。
「信用を拡大する構造」は、驚くほど変わっていない。
第5章:歴史が教える「信用革命」の本質
信用(借金)は、経済成長の原動力であり、同時にバブルの燃料でもあります。
1920年代も2020年代も、金融の民主化は「誰もがレバレッジを使える社会」を生みました。
問題は、そのレバレッジを理解せずに使う人が増えることです。
恐れるべきは“信用そのもの”ではなく、“信用の見えなさ”である。
見えないリスクこそ、最も危険な負債になる。
結び:「知恵としての金融」
信用の本質は「信じる力」ではなく、「見通す力」です。
バブルの本当の危険は、借金の多さではなく、借金の自覚のなさにあります。
便利さの裏にあるリスクを見抜く力こそ、次の時代を生き抜く最大の資産です。
次回(第3回)は、「バブル崩壊のメカニズム ― 債務・通貨・中央銀行の連鎖反応」を掘り下げます。
第2回:バブルを生んだ「信用革命」──1929年の個人投資家ブームと現代のユニコーン経済 – 資産運用ラボ ~株・経済・マネーの研究室~
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