ハノイビールが止まらない-ベトナム・ニンビン編#2
指定されているのは、とてもじゃないが待ち合わせになるような場所じゃない。商店街のど真ん中のただの通りだった。
本当にバスが現れるのか不安になりながら、カフェからさらに待ち合わせ場所の目の前にある珈琲屋へ移動しておく。
そこはこだわりのある小さな珈琲屋さん。ベトナム風に外に低い椅子が置いてあったのでそのまま座って待たせてもらう。
雨が全然弱まらない。
予定より数十分経って、バスではなくただの車が現れた。人数少ないからこのまま行くのかな?と思い眠りかけたところで急に降ろされる。どうやらそこからバスへ乗り換えたあとニンビン行きが出発となるらしい。色々謎で不安なままだがとりあえず乗り込む。
なんだか知らぬ間にすごくアジア旅っぽくなっている。バッグパッカーのつもりはない、実質そうであっても。
予定では2時間ほどでハノイ市内からニンビンに到着、となっていたはずだが、その予定の2時間経った時点ではバスはものすごいカオスな渋滞の中、謎にUターンを試みている最中だった。
何故今ここでUターンをしているのか、一体ここからどのくらいの時間をかけて目的地へ着くのか、何故我々のスマホは繋がらないままなのか。もう色々謎すぎたがひたすら乗っているしかできない。今どのへんにいるのかもわからない。もう寝るしかない。
雨も強まる中、恐らくニンビンに入ったかなと思われたタイミングでまた降ろされた。
そして誰も状況を説明してくれないので、とりあえず渋々そこらへんのおじに話しかけると「お前らはあっち」みたいな感じでまた別のバンを指さしている。欧米人たちとぎゅうぎゅう詰めになって乗り込んだら真っ暗な田舎道へとぐんぐん進んでいく。
え、このままどこかに葬られんじゃないか。
とかいろんな考えが頭をよぎってはくるが何もできない。相変わらず電波がない。今、私たちって一体どこへ向かっているんでしょうか。
途中途中で人が降ろされるけど、みんなして「え、ここで?」みたいな疑問符を浮かべたまま言われたとおりに降りていく。外が暗すぎて何もわからない。
私たちはホテルではなくホテルから一番近いボート乗り場に降ろされる予定だったので、どうやらそこに着いたっぽい。徒歩10分くらいでホテルなのだが、雨だし暗いし電波ないしで怖すぎる。夫がどこかの WiFiを拝借してタクシーを呼んだ。意外とめちゃくちゃ早く到着してくれたのでようやく安堵する。これでやっと助かった気がした。
ホテルに着くと、優しげなスタッフの方々に出迎えられながらも、想像していた受付の感じじゃない。若干不安を覚える私。
「あれ、設備が完璧に整った環境じゃないのかも、不便かも、山の中だから仕方ないのか?」
予想外に長旅になってしまって移動疲れもあり、これ以上の不便はもう勘弁してほしかった。部屋も実は想像より狭くって、「ホテル選び失敗しちゃったかも、、」と地味に落ち込む。あと寒い。
市内よりはきっと寒いことは予想していたけど、土砂降りなのもあるしエアコンの暖房の効きも弱そうですぐには温まらない。
どうしよう、昨日いたホテルに帰りたい。
まあ冷静に考えて今来た道をまた4時間以上かけて戻るなど不可能だし、出来てもやりたくないし。もう諦めてなんか食べよ。
「雨だから何かデリバリーでもするか?」と聞いてくる夫。いや待て待て、雨だけどホテルの隣にイタリアンならある。そこ行ってみるべし。
ホテルの人が傘を貸してくれたので雨の中歩き出す。本当にすぐ近くにレストランが見えた。可愛げなイタリアンだ。雨で寒いし疲れたしお腹空いたし、ベトナムにいようとももう何でも食らうわ。とか思っていたらちゃんとベトナム料理もメニューにあった。え、嬉しい泣くかも。本当は今イタリアンなんか食べたくないです。
窯があるから窯焼きピザがきっと美味しいのだろうけど、私は温かい汁物が食べたい。牛肉のフォーが食べたい。ついでに前回も食べて美味しかったベトナム風揚げ春巻きも注文しよう。
夫はジェノベーゼパスタだ。揺るぎないやつめ。
そのパスタがまず早々に到着した。見た目からも随分と量の少ないその姿に、「スパ王かと思ったわ」と三口くらいでさっさと食べきった夫が言った。
彼が食べきった後私のフォーがきて私はしっかり暖を取った。足りなく感じた夫も鶏肉のフォーを注文して食べ始めたがパクチーが強かったらしくいまいちなようだった。普段私よりもパクチーを余裕そうに食べているのだが、なぜか今回はダメらしい。私はベトナム料理に使われるパクチーに限っては結構強い。不思議な話だ。
ちゃんとした感じのお店だけどマレーシアのレストランで食事するよりは全然高くない。ベトナムって御飯が美味しいし安いしで最高だよなあと改めて有り難く思う。
雨は一向に弱まらないまま出来るだけ暖房を強めて眠る。こんな体験もなかなかないし、寒いと感じるのはもはや新鮮で変な感じがする。
明日は晴れるといい。
自然の中にいるといつもより早起きな気がする。お腹が空いたからなのか、ふたりして早くに目が覚めて朝食へ向かう。
しっかりと晴れた気持ちのいい朝だ。山の中だから念のため、と朝食付きのホテルを選んで正解だった。なんともない、トーストと卵料理と果物と珈琲の朝食だったけどそれでも十分有難かった。こんな山奥に豪華ビュッフェなどきっとないし、それもなんか違う。
ここに住んでいるのであろう猫たちとじゃれ合いながら、実は素敵な造りをしていたホテルをうろついてみる。二階にある私たちの部屋から見える山のすぐ下には川が流れていた。クアラルンプールよりは若干マシかと思えるくらいな汚さの川だ。日本の綺麗な川が心底恋しい。
部屋に戻りしばし朝を堪能する。ベランダにある椅子に座って外を眺め、ただぼーっとする。眺め続けてもなかなか飽きない景色だった。田舎だからか実家に帰省している時みたいに時が流れるスピードがものすごく遅く感じる。それがとても気持ちがいい。
ホイアン旅同様、また自転車に乗ろう。
ホテルで貸し出しを行っているはずだと探しに行くと、大人サイズの自転車が一台と若干小さめなサイズのキティちゃんのピンク自転車が一台。迷わず夫がそのキティちゃん自転車に乗る。なぜそうなる。
こうやって海外の見知らぬ街を自転車に乗って旅することの楽しさを、私たちは初めてのベトナム旅で知ったのだ。世界遺産の景色が広がるこの街の中を、どっちに何があるのかもよくわからぬままひたすら進む。
色んな所でボートに乗り込んでいく観光客を横目にしながら、ただ自転車をこぎ続ける。
山、崖、川、たまに前方からやってくるヤギ。平和な光景だ。
数時間の自転車旅を楽しんでホテルに戻り、またしばしだらだらする。だらだらできるのが田舎旅の良いところだ。
私はまたベランダへ出て、持ってきたハノイビールを飲みながら本を読んだりただ外の音を聞いてウトウト眠っていた。マレーシアでは感じない、静かで豊かな時間だった。なんとなく、この時の時間をずっと覚えていられる気がした。
一歩外に出るとわかることばかりだ。
普段いるクアラルンプールはやはり随分と都会で、私たちにとっては生活をしているところで、それは戦っている場所でもある。多民族で共存していることもあり、それぞれの文化や常識の中で過ごしていて意外と毎日のスピードは速く感じる。
ちなみにマレーシア人の歩くスピードは猛烈に遅いのだけれど、それでもみんな現代的な何かの成功を目指して生きている感じはする。何が良くて何が悪いでもなく、ただそんな感覚を持つ。
そしてここにいると、街のいたるところで目にする異様な数のベトナム国旗にちょっと驚いてしまう。それもまたこの国について考えさせられる光景だ。
夜になる頃、再び自転車を借りて御飯探しに出る。ラストに目指すはこの旅でまだありつけていない、ブンチャーだ。
口コミで評判の良いローカル店へ入る。私はブンチャー、夫はいつものごとくチャーハン、そしてまた春巻き。ブンチャーがきた途端そっちのが美味しそうだと言う夫。ブンチャーが何かも知らないままこの旅を続けていたようだ。実際に食べてみると甘酸っぱい汁に肉団子に細い麺、すべてが合う。このブンチャーはすっかり夫のお気に入りになった。好きなベトナム料理がまた増えた。
最後にまたカフェに行き、外に座って人々を眺める。のんびり過ごせた旅だったと思う。やっぱりベトナムは涼しいうちに来るのがいい。ただ、ハノイはずっと空気が悪いからあまり長居はしないほうがいいかもしれない。
明日はもう早朝に空港へ向かうだけだ。
少し寂しさを抱えながら最後の自転車旅を終えた。
早朝、今日も晴れていて綺麗だ。
ベランダからの景色にもおさらばして、チェックアウトへと降りていく。
前日に7時過ぎにはチェックアウトするよと伝えていたので、ホテルの人が朝ごはんをテイクアウト用にと包んでくれていた。
バインミーと果物だった。わざわざ用意してくれているなんて嬉しかった。これも予想外に、私だけに限ってはよくバインミーを食べた旅となった。もうしばらくは食べなくていいと思っている。
来る時に若干の不信感を覚えていたため警戒していたバスの迎えは、しっかり時間前にホテルに来てくれた。私たちはホテルスタッフに別れを告げてバインミーを持ち車に乗り込んだ。
帰りも謎に数回バスやらバンに乗り換えさせられながらも、きちんと予定通りに空港へ到着した。帰りはハノイ市内を通るルートだったのだが改めて街並みを眺めながら、可愛らしい街だなと思った。まだまだウロウロしてみたい気がする、きっとまた来るだろう。
でもわざわざニンビンまではもう行かないと思うからこういう旅はなんでも貴重に感じる。人生そんなに何度も同じことをするわけではない。初めてが最後になることなんていくらでもあると、旅を通じていつも思う。
最後に空港で夫はまたブンチャーを食べ、私は相変わらずハノイビールを飲んでいた。
そうやって旅が終わる頃には、お気に入りばかりが増えていた。
