母校の風景③ 北極星をえがく/岩井圭也

 2026年、北海道大学は創基150周年を迎えるそうだ。
 節目の年、いくつかのプロジェクトが動いているのだが、そのうちの一つがこの作品。
 北大卒業生の作家、岩井圭也が北大を舞台に小説を書き下ろす、しかもそれを無料配布するという。
 無料配布?
 いいんですか?
 三か月ごとに一話ずつ配布し、全五話で完結予定とのこと。
 第二話までいただいてきたので、ご紹介させてください。

 第一話、教養棟の蛙たち。表紙のイラストはもちろん教養棟。
 北十八条の教養棟こと高等教育推進機構には、北大生は必ず通うことになる建物だ。
 主人公、ひばり(もちろん北大生)のキャンパスライフもここから始まる。

 蛙学への招待。

 聞いたことのある響きでしょう。
 一年生向けの科目として、実際に開講されていた。
 蛙が苦手なわたしはもちろん履修を検討すらしなかったので、評判等はもちろん知らないのだが、物語の中では、結構重たい授業として登場し、ひばりも履修することになる。
 第一話はこの授業の進行を軸に進んでいく。
 グループワークがあったり、そこで人間関係を学んだり、ね。
 なんて懐かしいんだろう、大学一年生なんて、高校を卒業したばかりのまだぽやぽやした学生だ。未熟さゆえに衝突したりする、あの感じ。
 (恥ずかしながら今だってそういうこともあるけれど)
 こうやって、学問のやり方とはなんなのか、高校の勉強とはどう違うのか、ということを少しずつ学ばせてくれるのが教養の授業なんだよね。
 そんな懐かしさと同時に感じた、わたし、こんなに一生懸命授業受けてなかったな、という若干のうしろめたさ……
 授業の描写も細かいので、すべて本当の授業のとおりとはいわないのかもしれないけれど、実際に授業を履修していた方はもっと楽しんで読めるのだろうなと思う。

 あとは登場人物の設定も細やかだ。
 住まいで言っても、学生会館、実家、北大の自治寮である恵迪寮、マンションの一人暮らし、とあらゆる北大生の姿を描けるように設定したのだな、ということが伝わってくる。

 北大ってどんな感じ?と聞かれたら差し出せる、そんな小説になるのだろうな。
 早くもそんな予感がする第一話だった。


 第二話、歌え、ソングバード。表紙は、理学部だ。五号館かな。
 ひばりは二年生に進級する。
 ひばりは一年生のうちは進学先の学部が未定の「総合理系」だったのだが、知らぬ間に学部を決めていたみたいだ。
 そのあたりの葛藤とか、移行点の話とか、描いていたら巻数が足りないかあ。
 しかもどこに進学したのかがすぐに教えてもらえず、ずっと気になりながら頁を繰っていた。
 この巻では、ひばりは理学部の研究室のお手伝いをすることになる。
 研究室のお手伝いなんてする二年生じゃなかったな、わたし!
 学びたい意欲のある人間には答えてくれる、そういう場所だったのだなあ。ああ、もっと勉強しておけばよかった、とつまらない大人の独り言はおいておこう。
 ひばりは順調に、研究のファーストステップに立つわけである。
 厳しいと評判の先生の下でお手伝いをするわけだが、これもなんだかちょっと羨ましい。
 学生をしっかり指導してくれる教員なんて、鑑である。
 当たり前のようにそんな教員のそばで勉強ができること、しかもひばりは「お手伝い」であるのに、学ばせてもらえること、その贅沢さ。
 大学は、そういうものできらきらしていたのだ。

 研究環境があんなに整っていたのに、大学時代、なんだか無駄に過ごしちゃったかもな。
 そんな気持ちで頁をとじた。

 一つだけひっかかったのが、髪を染めたことのないひばりが「薄茶色ならいいかなあ」などと言っているのだが。
 薄茶色ならいいの?
 染めたことないけど、って最初に考えるのは地毛に近いトーンのダークブラウン、つまりは濃い茶色なんじゃないの?
 ひばりちゃんが良いならいいんだけどね。
 なんてどうでもいい話を始めてしまったので、ここで終えることにする。


 本作は、実際に教員に取材をしているということや、著者がOBであるということも大きく、キャンパスの風景だけでなく、授業や研究も深く描かれている点が魅力的だ。
 ひばりが学部を卒業するまでは見届けられるのだろうか。
 次作の刊行を楽しみに待つこととする。

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