世界でいちばん浴衣が似合う君
俺は、いま誰よりも緊張している自信がある。
だって、俺の隣には浴衣を着た咲月がいるのだから。
* *
「あ〜、もうすぐ夏休みかあ」
「佐香は、夏休みどこか行く予定あんの?」
「あんまりない。いや、あんまりどころかまったくないな」
学校が夏休みに入ろうとしている終業式間近、俺は友人の諒介といつものように教室で話をしていた。
「花火大会、あるじゃん。あれ、咲月ちゃんとか誘ってみたら?」
咲月は、同じクラスの可愛い女の子。クラスのマドンナというわけではないけれど、愛嬌があってお調子者の俺たちにも優しくしてくれる、天使のような存在だ。高嶺の花という雰囲気もないから、狙っている男は多そう。
「いや、むりむり。俺なんて眼中にないって」
「でも、佐香によく話しかけてくれるじゃん」
「あんなのみんなにやってるって」
咲月はみんなに優しい。もちろん俺にも優しいから、たまに勘違いしてしまいそうになる。モテる女性って、やっぱり愛嬌があるんだろうな。
「試しに誘ってみろって。案外OKしてくれるかもしれないだろ。お前にだけは特別優しい気がするんだよな」
「そうかな……。まあ、いつも話すノリで聞いてみるか」
諒介におだてられた俺は、昼休みに咲月にそれとなく聞いてみることにした。
「佐香くん、どうしたの? いつもより顔がこわばっている気がするけど」
「あ、いや……。そんなことないよ。そういえば、ノート見せてくれてありがとう」
「なに、急に。いつもは当たり前かのようにノートを奪い取ってくるくせに」
ふだんは、真面目な咲月に頼ってばかりいる俺。咲月は優しいから、嫌な顔ひとつせずに助けてくれる。
「そうだっけ……? あ、えっと……。毎年、夏に花火大会あるじゃん」
「うん、あるね」
「それってさ……誰かと行くの?」
予定を聞くだけなのに、心臓の音が早くなるのがわかった。ふだんはふざけた話もする仲なのに、こうやってかしこまるとヘンに緊張するな。
「それがさ、美空が行けなくなっちゃって。誰と行こうか悩み中なの」
「え、そうなの? じゃあさ……俺と行くとかどうかな?」
「え?」
いや、ストレートすぎだろ俺。もうちょいなんか理由をつけるとか、遠回しに言うとか、アプローチの仕方があっただろ。そりゃ咲月も戸惑うわ。
「あ、ごめん! なんでもない!」
「いいよ」
「え?」
* *
こうして、俺は咲月と二人きりで花火大会に来ることに成功した。
なぜ成功したのかはわからないが、隣に咲月がいることだけは間違いない。俺なんかが、咲月をデートに誘えた。それも、夏の一大イベントである花火大会に。夢のようだ。
今日の咲月は、学校での咲月とはまるで別人に見える。ふだんは制服姿しか見ることがないから、浴衣姿は新鮮だ。
俺よりも15センチほど小さい華奢な身体に、長い黒髪。水色の浴衣には花びらも描かれている。世界でいちばん浴衣が似合うんじゃないかと思うくらい、美しい。
「……屋台、いっぱいあるね」
「そうだね」
会話が、どこかぎこちない。学校では普通に話せるのに、こんなシチュエーションには慣れていないから、当たり障りのない会話しかできない。話を広げたいのに、頷くことしかできない。
会話の面白さが大事だとわかっているのに、盛り上げられる話が浮かばない。いつも友達と調子に乗った会話をしているのに、これじゃ本番に弱いダサい男じゃないか。
この状況で友達にあったらどんな顔をされるだろう。恥ずかしい。でも、自慢したい。あの咲月と花火大会デートをしているんだぞって。
「佐香くん、何食べたい?」
「んー、唐揚げかな」
結局、屋台で唐揚げやりんごあめを買って、ぎこちない会話をしながら打ち上げ時間になった。
今のところ、かっこいいポイントはゼロ。あとは花火の力を借りながら、仲を深めるしかない。
『ただいまより、第65回 納涼花火大会を開催いたします』
アナウンスの声とともに、盛大な拍手が沸き起こった。周りを見渡すと、カップルばかりだった。あらためて、自分も女の子と一緒にいることを自覚させられる。
そんなことを考えていると、花火が上がり始めた。
よく晴れた暗い空に、明るい花火が輝く。大きな光の玉が、目の前いっぱいに広がっている。手を伸ばせば届きそうなくらい、大きくて綺麗な花火。
ふと隣に目をやると、色とりどりの花火に釘づけの咲月がいた。言葉には出さないが、表情から感動していることがうかがえる。俺は、そんな咲月に釘づけだった。
たまに目が合って微笑んでくれるけど、深い意味はないのだろう。俺はどきっとしてしまうのに。
数十分が経っただろうか。眼前の花火は勢いを増し、いよいよクライマックスだ。咲月は、依然としてじっと花火を見つめている。
輝いていた花火がしだいに垂れていき、暗い空が戻ってきた。それと同時に、また大きな拍手が沸き起こった。
終わってほしくない。咲月ともっと一緒にいたい。デートが終盤に差し掛かるに連れて、俺はそんな感情が出てくるようになった。
諒介に流されるがままに実現した、咲月との花火大会デート。もともと仲は良かったけど、二人で遊ぶのはこれが初めて。デートの間はずっと咲月のことで頭がいっぱいだった。これって、もしかして特別な感情なのだろうか。
「……花火、綺麗だったね」
「うん」
花火より咲月ちゃんのほうが綺麗だったよ、なんてもちろん言えない。
「咲月ちゃん、今日は来てくれて本当にありがとう」
「こちらこそ、誘ってもらえて嬉しかったよ」
お世辞でも、こう言ってもらえるだけで嬉しくなる。笑顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
感情が昂ってきた。胸のうちに秘めておけないような感情だ。もう気を引ける話題なんてないし、伝えたいことはただひとつ。でも、俺は伝えられそうにない。
「……佐香くん」
「うん?」
「私、佐香くんとずっとこうしていたいかも」
今回の創作は、自分の企画への参加記事です!
悩んだ挙句、私は[B]私だけの夏祭り(創作)で出店してみました!
想いを伝えたいけど伝えられない。そんな葛藤がある中、まさかの相手から気持ちを打ち明けられる。
ああ、こういう青春をしてみたかったなあ……笑
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