見出し画像

「象徴天皇の務めの安定」を「皇室の将来の安定」にすり替え──池上彰「女性宮家」創設賛成論の「大本営発表」(令和6年8月29日)


前回、池上彰先生の「皇位継承」論を取り上げました。天皇論というより憲法論で、現行憲法の「国事行為」象徴天皇論なら、「女系継承」容認も当然です。「毒にも薬にもならない」と申し上げたのはその意味です。ただ、記事は弁護士JPニュースの編集部が先生の著書を一部抜粋し、まとめ直したもので、正確にはご本人の文章ではありません。

ということで、今日は、池上先生ご自身が書かれた「皇位継承」論を取り上げます。テキストにするのは、東洋経済オンライン(2018年8月8日)に載った、『池上彰が説く「女系宮家」という選択の現実味──皇位継承を確保するための諸課題』です。

◇1 ビデオメッセージが議論の出発点


池上先生は、2年前の陛下(先帝)のビデオメッセージから説き起こしています。そして、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」の制定過程で、「皇室の将来」が論点になったこと、また特例法には、新帝即位後は速やかに安定的な皇位継承を確保するための検討を始めなさいという「附帯決議」が盛り込まれたことを指摘しています。

つまり、池上先生は、陛下の「おことば」を出発点に起き、そこから「皇室の将来」を展望しようとしているわけです。そして、目下の課題は何かを問い、解決策としての「女性宮家」創設を検討し、さらに皇族減少への対策を検証し、最後にふたたび陛下のお言葉に立ち返り、お言葉を引用して記事を結んでいます。

もう少しくわしく読んでみます。その前に先生の記事のプロローグです。

◇2 権力批判を伴わないジャーナリズム


先生は「おことばから特例法が成立する過程で、『皇室の将来』も大きな論点になった」と簡単に書いていますが、「おことば」は先帝が高齢化の現実、御公務の御負担に苦悩され、「象徴天皇の務め」の安定的継続を願いつつ、「譲位」の意思を示されたものでした。

つまり、陛下の「おことば」は「象徴天皇の務め」の「安定」を願っているのですが、池上先生のエッセイでは「皇室の将来」にすり替えられています。天皇の「老齢化と御公務」問題が皇位継承問題に置き換わっています。

もっとも、「すり替え」は池上先生に始まったことではありません。元祖はほかにいます。ほかならぬ政府・宮内庁です。先生は権力に便乗しているだけなのでしょう。権力批判を伴わない先生のジャーナリズムは、やはり毒にも薬にもなりません。政府の論理をなぞり、広報官を演じているのなら、まるで大本営発表であって、百害あって一利なしです。

以前から申し上げているように、天皇の国事行為・御公務というのは、天皇の公正・中立の原則からすると、無限に拡大していく傾向があります。事実、御公務御負担の軽減が大きな課題となり、宮内庁は対策に取り組むことになったのですが、見事に失敗しました。御公務の件数は逆に増え、実際に減ったのは祭祀のお出ましでした。

けれども、宮内庁は失敗の原因を探ることも、みずから責任を問うこともありませんでした。そして陛下の譲位の表明へと進んだのです。

◇3 「女性宮家」など歴史にないのに


しかし「譲位」は「退位」に、またもやすり替えられます。そして、あれよあれよという間に、「退位に関する特例法」が成立しました。

そして、附帯決議です。先生が引用する決議には「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」とありますが、「おことば」の譲位の表明とは無関係です。とくに「女性宮家」創設は皇位継承の安定とは本来、関係がありません。

「女性宮家」などというのは、歴史にあるはずもなく、「宮家」の概念からも外れています。しかし、政府・宮内庁は、女性天皇容認論と「女性宮家」創設論を表裏一体のものとして実現を水面下で進めてきたのです。

池上先生はこうした経緯と問題点を完全に無視しているように見えます。皇位継承に関する先生の結論が政府・宮内庁と同じなのは理の当然です。

長くなりましたので、今日はこの辺で。(つづく)


いいなと思ったら応援しよう!

斎藤吉久 SNS上にさまざまな情報が氾濫し、情報はタダだと勘違いしている方が多い時代に抵抗し、良質な情報を流通させるために奮闘しています。問題意識を共有してくださる方、ご協力くださる方を探しています