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第8話 社会福祉士に合格した日

大学4年生になると、空気が少し変わった。

これまでは授業やアルバイト、彼女との時間を楽しみながら過ごしていた。

けれど、4年生になると、誰もが少しずつ現実を意識し始める。

卒業。

就職。

そして、国家試験。

学生という時間には、必ず終わりが来る。

そのことを、みんな何となく感じていた。

私にとって、大学4年間の最大の目標は社会福祉士の国家試験だった。

この資格がなければ、4年間の努力がすべて無意味になるわけではない。

それでも、ここで結果を出したいと思っていた。

自分なりに積み重ねてきたことを、形にしたかった。

勉強は決して楽ではなかった。

法律、制度、専門用語。

覚えることは山のようにあった。

昨日覚えたことを、翌日には忘れていることもあった。

何度も同じ問題を解いた。

分からないところには付箋を貼った。

赤ペンで書き込みを重ねた。

参考書は、少しずつ厚みを増していった。

カフェテリアに残って勉強した。

自宅でも机に向かった。

眠気に負けそうになる日もあった。

集中できない日もあった。

それでも、「今日の分だけはやろう」と自分に言い聞かせた。

一気に全部覚えることはできない。

でも、1日分ならできる。

その繰り返しだった。

派手さはない。

劇的な逆転もない。

ただ、目の前の一問に向き合い続けた。

今思えば、私はこのとき、最も健全な形で努力をしていた。

近道を探さない。

裏技を求めない。

誰かと比べすぎない。

やるべきことを、淡々と続ける。

それだけだった。

試験当日。

朝の空気はひんやりしていた。

会場へ向かう道で、参考書を開いた。

最後まで不安だった。

「ここが出るかもしれない。」

「覚えていたはずなのに。」

頭の中では、知識と不安が入り混じっていた。

試験が始まると、周囲の鉛筆の音だけが聞こえた。

分かる問題もあれば、自信のない問題もあった。

迷った問題には印をつけた。

最後まで粘った。

すべてを出し切った。

試験が終わったとき、ほっとしたような、まだ不安が残っているような、不思議な気持ちだった。

そして、合格発表の日。

自分の受験番号を探す。

一つずつ目で追っていく。

あった。

その瞬間、胸の中の緊張が一気にほどけた。

声には出さなかった。

でも、心の中で何度も「よかった」とつぶやいた。

努力が報われた。

その感覚は、静かで、確かな喜びだった。

私はこのとき、ひとつの大切なことを経験していた。

人生には、一発逆転だけが成功ではない。

毎日少しずつ積み重ねたものが、ある日ちゃんと形になる。

その喜びは、派手ではない。

けれど、とても深く、長く心に残る。

後になって、私は何度もこの感覚を忘れてしまう。

すぐに結果を求め、

近道を探し、

一瞬で人生を変えようとするようになる。

それでも、あのときの経験は消えていなかった。

静かなカフェテリア。

書き込まれた参考書。

震える指で探した受験番号。

そして、「努力は無駄にならない」と信じられたあの日。

あの経験は、今でも私の中に残っている。

人生は、派手な勝利だけでできているわけではない。

小さな積み重ねが、ある日そっと答えをくれることがある。

そのことを、私は確かに知っていた。

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