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33年かけて生まれたぶどう

シャインマスカットを食べたことがありますか。

皮ごと食べられて、甘くて、種がなくて、粒が大きい。気軽に口にできる値段ではないけれど、贈り物にも、秋の楽しみにも選ばれやすい、いまや日本を代表するぶどうです。

でも、このシャインマスカットが世に出るまでに、33年かかったことを知っている人は多くないかもしれません。

しかも、その33年かけて作った品種が海外に流出して、農水省の試算では年間100億円以上の損失が出ていると言われています。農家が長年育ててきた努力の結晶が、気づいたら遠くの国で別の誰かによって大量に作られていた。

今回は、シャインマスカットを入口に、品種を「作ること」と「守ること」の話をやさしく整理してみます。


33年という時間

シャインマスカットの品種登録は2006年です。でも開発が始まったのは1988年、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)での交配実験からでした。

品種改良というのは、ふたつの植物を掛け合わせて、望ましい特性を持つ子どもを作り、それをまた掛け合わせて、何世代もかけて理想に近づけていく作業です。思い通りの特性が出るとは限らないし、出たとしても安定して育つかどうか、病気に強いかどうか、保存がきくかどうかと、確認しなければならないことが山ほどあります。

シャインマスカットの場合、「皮ごと食べられる、種がない、甘い」というおいしさを実現しながら、栽培のしやすさや日持ちまで兼ね備えるまでに、実に33年がかかりました。(シャインマスカットの親系統の選抜が1973年)

その間、関わった研究者は何人もいます。毎年、交配して、育てて、評価して、また次の世代へ。地道な積み重ねの上に、あの一粒があります。


品種ってそもそも何を守っているのか

シャインマスカットのような登録品種には、「育成者権」という権利があります。開発者が一定期間、その品種の種苗を管理できる権利です。無断でコピーを作って売ったり、海外に持ち出したりすることを制限できます。

ただし、この権利には大きな落とし穴がありました。育成者権は、登録した国の中でしか効力を持ちません。日本で品種登録しても、海外では別途その国で登録しないと、向こうでは自由に作れてしまう。

シャインマスカットは、国内での品種登録はされていましたが、海外での登録が間に合わなかったり、登録されなかった国がありました。その結果、中国や韓国でシャインマスカットの苗が持ち込まれ、栽培が広がり、産地が形成されていきました。

農水省の試算では、年間の損失額は少なくとも100億円以上。中国の栽培面積は日本の30倍以上になっているとも言われています。


33年かけて作ったものが、なぜ守れなかったのか

ここがいちばん複雑な部分です。

農研機構も、海外での登録が必要なことは認識していたとされています。ただ、海外で品種登録をするには費用も手間もかかります。複数の国で登録するにはさらに手間がかかる。そのための予算や人員が十分ではなかった、という事情があったと言われています。

さらに、登録には期限があります。国内での販売開始から一定期間内に海外出願しなければ、その後は登録できなくなる。その期限を過ぎてしまった国があったことが、流出を止められなかった理由のひとつです。

予算と仕組みの問題が積み重なって、33年の努力が守りきれなかった。


農家は「また一から」では済まない

品種流出の話は、研究機関の損失だけで終わりません。現場の農家にも直接響きます。

日本のシャインマスカットは、丁寧に栽培して、品質を管理して、高い値段で売ることで成り立っています。でも、中国や韓国で大量に安く作られたシャインマスカットが東南アジアの市場に流れると、「日本産」の価値が崩れていきます。

高品質のものを丁寧に作っているのに、「シャインマスカット=安いもの」というイメージが広がってしまうと、値段が崩れる。農家にとっては、品質を保ちながら経営を続けることが難しくなっていきます。

33年かけて作った品種を、さらに何年も手をかけて育ててきた農家にとって、これは他人事ではない話です。


種苗法の改正で、少し変わった

こうした背景から、日本では2020年に種苗法が改正されました。

改正後は、登録品種について「海外への持ち出しを禁止する国を指定できる」「栽培できる地域を指定できる」という権限が育成者に認められました。違反すれば法的に止められる仕組みが整いました。

改正前は、正規に購入した苗木を海外に持ち出すこと自体は「違法ではなかった」んですよね。つまり、制度の穴から流出していた面があったわけです。

ただ、改正後も課題はあります。すでに流出してしまったものは取り戻せません。法律が整っても、海外での執行は難しい場面もある。「守る」仕組みを作ることと、「守り続けること」は別の話でもあります。


スーパーの一房が見せてくれること

家庭菜園をしていると、野菜や果物が「できる」までの手間を少し実感できます。水やり、肥料、虫の対策、天気との戦い。それでも一年が単位の話です。

シャインマスカットの育種には33年かかりました。それは、研究者の仕事人生の大半に相当する時間です。

スーパーの棚に並ぶあの一房は、ただの商品ではなく、30年以上の積み重ねと、農家の何年もの丁寧な栽培の結果です。そう思いながら手に取ると、少し重さが変わる気がします。

品種を作ることの長さ、守ることの難しさ、失うことの痛さ。シャインマスカットは、その全部を教えてくれる果物でもあります。


まとめ

シャインマスカットは、1988年からの研究を経て2006年に品種登録された、33年かけて生まれたぶどうです。皮ごと食べられる甘さと種なしを実現するために、何世代もの交配と評価を繰り返した研究の成果です。

しかし、海外での品種登録が不十分だったため、無断栽培が広がり、農水省の試算では年間100億円以上の損失が生じています。2020年の種苗法改正で制度は整いつつありますが、流出したものを取り戻すことはできません。

品種を作ることと守ることは、農業の中でも見えにくい部分です。でも、食べているものの背景にその話があると知ると、旬の果物の見え方が少し変わります。

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