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あらゆる詐欺に引っかかっていた祖父の話

私の祖父は非常にプライドが高い人であった。

プライドが高い人間は詐欺と非常に相性が悪い。
詐欺にひっかかっても、自分が詐欺にひっかかる馬鹿だと認めてしまうことになるので、誰にも相談しない。もちろん警察にも行かない。

祖父は着払いでカニを送りつけられても、「丁度カニを食べたかったんだ」みたいな強がりを言う人間であった。

一度詐欺に合ってしまうと詐欺師のカモリストに載ってしまうのだろう。
祖父がまた違う詐欺に引っかかっただの、それを隠そうとするから発覚まで時間がかかって大変だの、母が頭を抱えながらなんか言っていたのだが、聞きたくないのであまり聞いてなかった。

その中でも、私がへーそんな詐欺があるんだ、と感心した詐欺を一つ紹介させて欲しい。
その名も「伝記詐欺」である。
まず、祖父の家に編集者を名乗る男が訪ねてやってくる。
そして「あなたは後世に語り継ぐべき素晴らしい人間なので、あなたのありがたいお言葉を是非とも本にしたい。」みたいなことを言い、大げさに褒めそやす。(祖父は一般人。)
自分がすごい人間で、もっと認められたいと思っている祖父のような人間は、「お、君には私のすごさがわかるのかね?」といった感じで大喜びでホイホイ引き受けてしまう。

そして、書きあげた原稿を元にして実際に本を作成してしまうのがこの詐欺のすごいところ。
原稿を送ってから、数か月後。製本された広辞苑のような厚さの本が家に届くのだ。
その本を開くと、中には"自分のことを凄いと思っている"謎のジジイ、数百人分のありがたいお言葉がびっしりと収録されている。

「愛というのは、己を知り、そして他人を知ることである----」 〇〇会社役員 田中敬三

みたいな感じの、お前は誰で、何を言ってんだよ。とツッコミたくなるような有象無象のジジイどもがどこかで聞いたような薄い名言をつらつら連ねている。

数百ページもある中で、祖父の文が占めているのは、たったの2ページ弱であった。
そして、祖父はその本を一冊30万円で買い取るのだと言う。
家族がさすがに高くないか?と聞いたが、どうやら最初の契約で、「発行したら〇冊買い取る」みたいな契約書を結ばされてるという。
それでも祖父は「いやぁ、編集者がどうしても私に書いて欲しいと言うんだよ」となぜか誇らしげで、詐欺だということに気付いてないのか、気付かないようにしているのかは最後までよくわからなかった。

それにしても、この詐欺、本当によく出来ている。
実際に本を出版してる以上、向こうはいくらでも言い訳が出来るので、詐欺として立件出来るのかは難しいだろう。
"自分のことを凄いと思っている"ジジイ達は「俺は作家になって本を出版したんだ」という気持ち良さを感じていると思うので、警察には行かないだろう。
祖父も天国で、広末涼子ばりに気持ちくしてくれてありがとうと感謝しているかもしれない。
構造的にはキャバクラとかと同じで、被害者もいないし、もしかすると30万円は正当な対価なのかもしれないとも思えてくる。
世の中にはこういう詐欺もあるんだなぁと勉強になる出来事であった。

祖父は晩年、足を悪くし、車を壁にぶつけまくって免許を返納してからは電動カート(通称コロコロ)に乗って移動していた。
LUUPより遅い、時速10キロぐらいで走るコロコロに乗り、二駅隣の怪しい健康食品の店に怪しい健康ジュースを買いに行き、それを毎日飲んでいた。
謎の健康ジュースは一本数万円する代物らしく、「これは体にいいんだ!これのおかげで長生きが出来るんだ!」と力説していた。

祖父はとにかく生への執着がある人であった。
今の自分が生きていられるのは自分のそうした努力のおかげだと思い込んでいて、そこにとても自信を持っている人だった。
そのため、毎朝新聞の訃報欄をチェックして、自分より下の年齢で死んだ人をみつけては「私の勝ちだ!」みたいなことを言って喜んでいた。
私はそれを見るたび、なんて悪趣味なんだ…と思っていた。

そんな祖父の最期は、なんともあっけないものであった。

今まで別々に暮らしていた両親が介護のために祖父と一緒に暮らし始め、私も2階の一室に住むようになってから、そう日も経ってない頃の話である。
私がいつも通り自分の部屋でゲームをしていると、一階からバタン!という大きな音がして、その後すぐ母親の「おじいちゃん!おじいちゃん!」という叫び声がした。
私は『CoD BO2』が抜けられる状態ではなかったので、画面から目を離さないまま「どうしたのー?」と一階に声をかけたが返事はなく、しばらくバタバタと動きまわる音がした後、あっという間に救急隊員が家に入って来て祖父は連れていかれてしまった。
チームデスマッチが一戦終わるまでなので、時間でいうと10分ほどであろうか。一瞬の出来事であった。
ゲームを終わらせて一階に降りると、真っ暗で誰もいない。
祖父が亡くなった瞬間にゲームをしていたなんて、我ながらクズなエピソードだなぁ。

亡くなった日の昼、家族みんなで行ったお墓参りで祖父は「ワシは100歳まで生きるぞ~!」と宣言し、その後行ったガストで定食をぺろり一人前食べていたのに。
やっぱりあの健康ジュースは詐欺だったんだ。と思った。

葬式だのなんだのが全て終わり、ふと、玄関に持ち主を失ったコロコロが止まっていることに気付いた。
母に「これどうするの?」と聞くと、明日にはレンタル業者が持っていってしまうらしい。
私は最後ならいいだろうと思い、コロコロに乗って近所を一周した。
ヘルメットを被らなくていいので顔に当たる風がとても気持ちよくて、これなら二駅隣にも行けそうだと思った。

祖父の訃報を聞いて、どこかのジジイが「私の勝ちだ!」と喜んでいるのかもしれない。


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