濃縮ウラン奪取は現実的か――地上戦という選択肢の検証
木村浩一郎(リーダーズノート出版代表) 2026年4月6日 本文敬称略
トランプ大統領は、米国との和平合意を迫り、期限までに応じなければ48時間以内に「とてつもない地獄(all hell will rain down)」に直面することになるだろうなどと警告した、と伝えられた。
これまで2回延長されているこの期限は、アメリカ東部時間の2026年4月6日午後8時なので、日本時間でいえば、4月7日の午前9時までということになる。その期限は、明日に迫ったが、イランは降伏する気はないらしい。
では、トランプはいったい何をするのか?
イランの発電所や橋などの重要インフラを攻撃し、徹底的に破壊("obliterate")するとも言っていたのだが他には何かあるのだろうか?
そこで思い出すのは、ロイター通信の3月末の報道だ。
ーー週末にかけて、2,500人の海兵隊員が中東に到着した。
ーー想定される任務には、カーグ島、ホルムズ海峡の石油輸送路確保、濃縮ウランの回収などが含まれる。
たしかに、原油輸出の核心拠点カーグ島やホルムズ海峡チョークポイント(choke point)の占領、あるいは、ナタンズ・イスファハンなどに保管中とされる濃縮ウランの奪取などが可能になれば、トランプは、堂々と勝利宣言を出すことができるにちがいない。
しかしこの3つを念頭においた地上戦は、いずれも難易度が高い。米兵の大量の死傷者を出すことだけは避けなければならないからだ。
3月1日の国民向けの演説で、トランプは、イランと合意できない場合は、今後、2、3週間以内にイランを「石器時代に戻す」とも宣言している。そのとき「イランの油田施設だけはまだ攻撃していない」とも言っており、カーグ島を破壊対象に挙げる、などと投稿していた。カーグ島に注目が集まったのはいうまでもないことだ。
しかし最大3000万バレルを貯蔵できるカーグ島を、米軍が破壊することはナンセンスだろう。大規模な環境汚染を引き起こすだけでなく、世界経済に与える影響も深刻だ。
また、カーグ島は、イラン本土から25kmしかなく、米軍が乗り込んで占領するというのも、逆にイランから攻撃されるという面で、かなりリスキーに違いない。
◼️トリポリとボクサーは、単なる脅しなのか?
ニミッツ級原子力空母「エイブラハム・リンカーン」は、アラビア海に展開中で、フォード級原子力空母「ジェラルド・R・フォード」は、地中海方面で再配置中である。
さらに、ニミッツ級原子力空母「ジョージ・H・W・ブッシュ」は、3月31日に、ノーフォークを出港したとされ、打撃群には、空母本体に加え、駆逐艦ロス、ドナルド・クック、メイソンも含まれるという。
さらに気になるのは、ヘリやボートで部隊を敵地へ上陸させる「強襲作戦の拠点」となる強襲揚陸艦の動きだ。
強襲揚陸艦の「トリポリ」は、長崎の佐世保を出て、すでに中東に着いているという。約2,200人規模の、米海兵隊の即応部隊、第31海兵遠征部隊(31st MEU)を積んでいる。
31海兵隊といえば、沖縄のキャンプ・ハンセンに司令部を置き、アジア太平洋地域で唯一、常に前方展開しており、海上・陸上・航空での緊急展開任務を担う部隊だ。
さらに強襲揚陸艦の「ボクサー」も、ドック型輸送揚陸艦ポートランドやドック型揚陸艦コムストックと共に、日々、近づいている。
ボクサーには、オスプレイやステルス戦闘機、約2500人の第11海兵遠征部隊(11th MEU)も積まれており、3月2日時点では、太平洋横断中でハワイ近郊まで来ていると報じられていた。
とすると、ボクサーが、ホルムズ海峡付近に到着するのは、4月下旬から5月初旬になるのだろう。
このトリポリとボクサーを、単なる脅しと考えてよいかは、議論のあるところだろう。
少なくとも、中東において空母打撃群の増派や、150機規模の航空戦力の展開、さらに空挺部隊や海兵隊の投入を進めており、大規模軍事行動に対応可能な体制を整えつつあるのは間違いのないことだ。
◼️ナタンズ・イスファハンの濃縮ウラン奪取
そして最も気になるのは、ナタンズ・イスファハンなどに保管中とされる濃縮ウランの奪取の件である。
ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、3月29日時点では、「トランプ大統領は、イランの濃縮ウランを回収するための軍事作戦を検討しているが、まだ実行するかどうかを決定していない」などとしていた。
濃縮ウランの施設があるナタンズとイスファハンは、いずれもイランの内陸部にあるため、陸上で進むことはおよそ現実的でない。
そこで登場するのは、空から降下する第82空挺師団だ。
かつて、農場、工場、炭鉱、大学、あらゆる場所から様々な背景を持つ若者たちが、すべての州から1つの旗の元に集まったという歴史から、オールアメリカン(AA)というニックネームを持つ。
「アメリカが持つ最速の地上戦力」、「命令が下れば18時間以内に動く」などと言われ、エンジ色のベレーにAAの紋章を付けて、紛争地に舞い降りると言われている。
◼️大型輸送機で、約2000人を上陸させる
実際には、C-17グローブマスターや、C-130ハーキュリーズといった、いわゆる大型輸送機で、約2000人規模の部隊が、中東へ向かうとされている。
むろんこのなかには、指揮(司令部)、通信、補給、医療、整備、輸送、情報・監視の人員が含まれており、実際の戦闘部隊は、約1,000〜1,500人前後と推定される。
しかし、飛行する過程でイランの地対空ミサイルや無人機(ドローン)攻撃を受けるおそれもある。また、これだけの人員のパラシュートでの降下、地上での設営などが急襲されるリスクを避けなければならない。
さらに、施設が地下深くにあり、その上にある土砂や瓦礫を取り除くには、重機も必要となる。
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長の話では、米軍がこれら施設からウランを回収するには放射性物質の扱いなど特別な訓練を受けた精鋭特殊部隊を投入する必要があるという。
高濃縮ウランはスキューバ酸素タンクと似た円筒形容器40~50個に保管されている可能性が高いが、これらの容器を保護するために、別途運送艦が必要で、これはトラック数台の分量になると予想されるらしい。
米中央軍司令官と特殊作戦司令官を務めたジョセフ・ボーテル氏は「これは迅速に入って抜ける性格の作戦でない」と話したという。(中央日報)
実際に、C17やC130の輸送機は、どこから飛ぶのかを考えてみた。
これまでは、この戦争に加担しないとしてきた中東の国が、滑走路を米軍に貸すのかどうかである。
現実的な候補は、カタール、クウェート、UAE(アラブ首長国連邦)、サウジ東部、ヨルダンなどだろうか?
たとえば、UAEの場合には、イランから、ミサイルやドローン攻撃を受けたことや経済的打撃から、イランに対して強硬姿勢に傾いていると分析されており、軍事介入するならば、湾岸アラブ諸国としては初めてのケースとなるというが、空港の滑走路を貸すとなると別の話だ。
細かい話にはなるが、空挺部隊が、一気にアメリカの本土から、直接、作戦地域へ降下するわけではなく、また、C-17やC-130といった輸送機は、1機あたり数十人から100人程度しか運べない。
約2000人規模の部隊を展開するときには、複数機による段階的な輸送が必要となる。想像以上に大掛かりな輸送である。
したがって、実際には米本土から湾岸の基地へ戦力を集結させ、そこから前線へ投射するという二段階の輸送が前提となるようだが、輸送機は図体が大きいために、万一、狙い撃ちされると大惨事になるわけだ。
4月6日時点で制空権が完全に確保されているとは言えず、これだけのリスクを取るのは難しいようにも思える。
しかしながら、今年の年始のベネズエラでの爆撃や、2月28日のイスラエルとアメリカによるイラン戦争開戦時の急襲を考えると、不可能を可能にしたような計画があったようだ。
カーグ島やホルムズ海峡チョークポイントの占領ですら、無いとの断言もできない。さらには、イスラエルが囮的な攻撃をする可能性も否定できない。
「単なる脅しだ」「計画性に欠け、優柔不断だ」といったトランプ評価が広がるなかで、本稿では、あえてその前提をいったん脇に置き、このような作戦の可能性について探ってみた。
明日予定されている、トランプの演説にも注視したいところである。
文責/木村浩一郎 リーダーズノート出版 2026年4月6日
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◼️参考・引用文献
・2026年3月 Reuters “Thousands of U.S. troops arrive in Middle East amid buildup”
・2026年3月 Reuters “Trump administration weighs Iran military options including Kharg Island and uranium recovery”
・2026年3月29日 The Wall Street Journal “U.S. Considers Operation to Recover Iran’s Enriched Uranium”
・2026年3月 中央日報 「トランプ大統領、イラン高濃縮ウラン回収軍事作戦を検討中」
・2026年3月 中央日報 「カーグ島焦土化で生じる事態」
・2026年3月 中央日報 「米国・イスラエル、ウラン確保へ特殊部隊投入検討」
・2026年3月 Royal United Services Institute(RUSI)報告書「イラン核施設攻撃の困難性評価」
・米国防総省(DoD)公開資料 C-17 Globemaster III / C-130 Hercules 性能データ
・米中央軍(CENTCOM)関連公開情報
・IAEA(国際原子力機関)ラファエル・グロッシ事務局長発言(報道ベース)
・DVIDS(米軍公式広報)空挺部隊・輸送機関連写真資料
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