青山で、異人になる― 隣の席に、知らない世界を見た ―
青山という街で待ち合わせをした。
待ち合わせ場所は、
駅の改札からすぐ近くのカフェ。
私よりずっと若いお友達が、
「希帆ちゃんのHappy退職プロジェクト」と銘打って、
これからの作戦を一緒に練ってくれるという。
普段あまり使わない駅。
しかも忙しいお二人が、
わざわざ私のために時間をつくってくれる。
それが本当にありがたくて、
「絶対に遅刻できない」
そんな気持ちで家を出た。
迷うことも想定して、
かなり余裕を持って出発したのだけれど——
ありがたいことに、
駅でもまったく迷わず、
店も改札をでるとすぐに目に入るところにあった。
まだ待ち合わせには早い。
せっかくだから、
先にお茶を頼んで、
のんびりnoteでも書きながら待つことにした。
青山の空気は、
どこか少し背筋が伸びる。
カフェを利用する人たちは洗練されていて、
ちょっとドキドキする。
和服を普段着のように着こなし、
ひとりで静かにお茶をしている人。
打ち合わせをしている人。
勉強している人。
こう書くと、
別にいつものカフェと変わらないようなのだけれど、
なにかが少し違う。
空気の密度というか、
流れている時間というか——
みんな自然体なのに、
どこか"余裕"のある感じがするのだ。
そんなことを考えていると、
男性二人組が話しながら入ってきて、
すぐ隣の席に座った。
おひとりは、
一見、普通のおじさまなのだけれど、
なにか全然普通じゃない。
姿勢や手の動き、
声の出し方が、とてもきれいなのだ。
踊りでもされているのかしら。
それとも歌舞伎の女形…?
そんなことを考えながら、
歌舞伎鑑賞したときのパンフレットにある役者さんの素顔をぼんやり思い出そうとした。
だけど、もちろん思い出せない💦
すると彼が、
向かいに座った若い男性に尋ねた。
「ボーナスはもらったの?
相場がわからないんだけど…
200万くらい?」
女性のような柔らかな語り口と、
飛び出してきた金額とのギャップに、
私の好奇心は一気にマックスになった。
え?
ボーナス200万?
いや〜
相場知らなさすぎでしょう…!
しかも、
こんな若い男の子に?
心の中で、
すかさずツッコミを入れる。
すると若い彼が、
少し照れたように笑って言った。
「いや…」
「あら?
…もしかして250万?
たくさんもらえたのねぇ。
よかったじゃない!?
ロレックスでも買うの?」
「はい。
そうですね」
ハンマーで殴られたような衝撃に、
思わず顔を上げて、
再度ふたりをチェックする。
ガン見しちゃダメ!
そう思っても、
気になって仕方がない。
何度かそっと視線を向けると、
シンプルなシャツにジーンズ姿のおじさまが身に纏うものは、
実はものすごく“いいもの”ばかりだった。
ベルトも、
腕時計も、
ブレスレットも、
ネックレスも、
さらりと身につけているのに、
明らかに"普通"じゃない。
しかも
金色のアクセサリーたちが、
照明を受けてキラリと光る。
ああ…
じっくり観察したい。
でも、
それはさすがに失礼よねぇ…。
私は、
さりげなく顔を上げては、
何事もなかったように、
またそっと視線を戻した。
同じ都会に住んでいるはずなのに、
まるで別世界の人たちの中に入り込んでしまった感じ。
普通じゃないのは、私…
「へぇ…
こんな世界もあるんだ」
と、なんだか愉しい。
普通にお茶を飲んでいるだけなのに、
知らない世界の扉が、
次々に開いていく。
青山って、
そんな街だった。
青山は、
知らない世界でできている。
そして、
世界はまだまだ、
知らないことで満ちている。
